二日が経過する。
 その間に坂本は男の身上を知ろうと執念深く行動した。
 結果分かったことは、男は推測どおりと同じ大学に通っているということだ。
(そんだけ知るのに二日もかかっちまった。アイツならもっと早く済むのかもな……)
 坂本はやっと通い慣れた大学近くのチェーンのファミリーレストラン、その窓際の席を陣取って何杯目かもわからないドリンクをまた空にした。小さな欠片と成り果てた氷が立てるカランという高音がいやに耳に障った。
 調査などと言っても地道なものである。
 駐車場の出入口が覗く場所からひたすら車の出入りを見張り、あのとき走り去った車と同じ車種があればナンバーを記録。後日駐車場に忍び込み、該当の車とナンバーを頼りに持ち主が乗降するのを待って顔を確認する。横顔は覚えているから、繰り返しているうちに男には簡単に辿り着いた。
 けれどそこから先が問題だった。ここまでは坂本が気を付けてさえいればに知られずに済んだが、さらなる情報を求めるとなれば、自然に坂本が調査していることが露見してしまう可能性は跳ね上がる。
 それは避けたかった。彼女は忘れてくれと言っていたし、なによりこんなふうに身の回りを嗅ぎ回られていい気はしないものだろう。
 それでも辞める気がないから、どうしようかと悩んでいるのだ。
「どうすっかなー……姉ちゃんにバレたら意味ねーし……」
「なにそれ。バレたらヤバいよーなことしてるってこと?」
「このハンバーグプレート頼んでもいいか?」
 ……坂本は、この上なく驚いて、仰天して立ち上がり、窓の外に投げていた視線をテーブル席の対面に向けた。
「ンっっ、な!? なんっ、……なんでェっ!?」
「デカい声出さないでってば。ほんとりゅうちゃんって落ち着きがないんだから」
「待ってくれ、ミラノ風ドリア……いや、パスタも捨て難いな……りゅうちゃん、お前ならどれにする?」
 力を失ってズルズルと座席に戻った彼の目の前には、呆れた顔をしつつおしぼりで指先を拭く高巻と、メニューを片手に未だかつてないほど真剣な顔をした喜多川が座っている。
「待って……ほんと待って……どこからツッコんだらいいんだよ……」
「いやもう待たん。パンチェッタと若鶏のグリルだ」
「そんだけ? じゃあ私ピザ食べよーっと。ドリンクどーする?」
「いいのか?」
「いーよ。全部一緒にしても大したもんじゃないし」
「杏、君は俺の女神だ」
「その女神ちょっと安過ぎじゃない?」
 テンポよく交わされるやりとりに、坂本は項垂れて頭を抱えながらかろうじて声を発する。
「その前に女に奢られてる状況を不思議に思えよ……カッコ悪ぃ……」
「心配するな。これは報酬だ、奢りじゃない」
 堂々としたこたえに目線だけを上にあげると、何故か自慢げに胸を張っている喜多川の姿が目に映る。坂本は再び俯いて、そのままテーブルに額を突っ伏した。
「報酬ってなんだよ……」
「私の護衛」
 答えたのはオーダーコールに手を伸ばした高巻だった。坂本は再び顔を上げる。
「りゅうちゃんが遊んでくれないってリーダーが拗ねてんの。なんか変なことに巻き込まれてないかって心配もしてた。だから監視しにきたの。ほら、最近ちょっと……アレじゃん?」
 そういうわけで喜多川を護衛に指名してここにいるのだと語った高巻に、坂本は口をへの字にして押し黙った。
 確かに昨今の怪盗団を取り巻く環境は微妙の一言に尽きるが―――だからといってそこまで心配されるいわれもないはずだ。
 この坂本の意向を読み取ったかのように喜多川が口を挟んだ。
「今の状況でなにかがあってからでは遅いからな。転ばぬ先の杖というわけだ」
「杖? ファンタスティックビースト的な?」
「え?」
「ん?」
 顔を見合わせた二人に、坂本は氷を噛み砕きながら
「帰れ」とうんざりした語調でもって訴える。
「もう呼んじゃったし」
 こたえて高巻は注文を受けにきた店員を指し示した。その隣ではさっそく喜多川が彼へあれこれと言いつけているではないか。
 坂本はもはや何度目かもわからぬため息をついた。
 これに店員が不思議そうな顔をして彼へ視線を送るが、小さく首を振られるとそれを注文は無いと正しく受け取ったのだろう。頷いて、ちょっとおかしな日本語で注文を繰り返した後立ち去った。
「マジなんなんだよ」
「護衛」
「監視」
 端的に答えて、二人は楽しくもなさそうに窓の外に目を向ける。
「で? あそこになにかあんの?」
「お前らに関係ねぇだろ」
「釣れないことを言うな、りゅうちゃん」
「そーよそーよ、りゅうちゃんのクセにナマイキ」
「やめろってンだろ!!」
「デカい声出していいワケ?」
「他の客に迷惑だろう」
「あーっもーっ!」
 弁舌において坂本が勝てる道理が無かった。単体であれば日本語に若干弱い高巻と常人と違った繋がり方をする思考回路を持つ喜多川など敵ではないのだが、二人が合わさって問い詰めてくるとなると手に負えない。
 それは例えば引くことなく押し寄せる小さな波のようなものだ。一つ一つは大したことがないし、なんなら跳ね除けられるのに、次々に押し寄せられていつの間にか足元が崩されている。
 坂本は諸手を上げて降参を示した。
「チェッ、なんだよ、どいつもこいつも……お節介って言葉知ってっか?」
「バカにしてんの? 知ってるからここにいるんでしょ」
「お前が言うなと言っていい場面でもあるな。竜司、お前が言うのか?」
「……ちくしょう」
 項垂れて、彼はここに至ったわけを不承不承、嫌々ながらに語ってやる―――
 返されたのはテーブルを叩く強い音だった。
「はあぁ!? なにそれサイッテー!!」
「声が大きいぞ、杏。だが気持ちは同じだ。許し難い」
 ある意味では予想できていた反応ではあった。普段なにをしているのか知らなくったって、が受けた仕打ちを知って彼らがどう思うのかくらい、二人を少しでも知っているのであれば分かるようなことだった。
 それを誇らしいと思うかうっとおしいと思うかは受け手に委ねられる。
 坂本はその中間くらいの感想を抱いた。
 ウザったいけど、こういう奴らだから一緒に怪盗団なんてやっていられるんだろうな。彼はそのように思って、頬杖をつく手で隠した口の端を持ち上げてみせた。
 それを伝える気は毛頭なかった。そんな恥ずかしい真似をするくらいなら声の大きいお調子者で子供っぽい悪友のままで良かった。
 注文が揃ったことを確認する店員におざなりに返事をしてやりながら、高巻はまた口を開く。
「ていうか、そんなんあってなんですぐウチらに言わなかったの? どう考えたって……出番じゃん」
「そりゃ……お前……」
 そんなのプライドの問題に決まってるだろ。などとはちょっと言い出せなかった。言い出したら最後、烈火のごとく怒り出すか、零下のごとき冷たい目で睨まれるか、あるいはこの上なく呆れられるか。どれにしたってごめん被りたい。
「竜司にも事情があるんだろう。あまり問い詰めてやるな」
 曖昧に濁して口ごもる坂本に味方をしたのは彼にとっては意外なことに喜多川であった。また彼は常ならなにを考えているのかよく分からないはずの瞳で坂本をちらりと見て、ふっと小さく笑ってもみせた。
 その目はお見通しであると―――嫌味ではなく、共感をもって訴えている。
 坂本はただ小さく肩を竦めてそっぽを向いた。
「とにかく……そのクソ野郎が姉ちゃ……さんと同じとこに通ってるってのは分かったけど、そっからどうするかって悩んでたとこ。下手打ってさんにバレたら元も子もねえしよ」
「ふーん」
 大した関心もなさそうに相槌を打って、高巻は目の前に置かれたピザを一切れ取り上げる。伸びたチーズがびよんとぶら下がってテーブルに落ちそうになるのを見て、彼女は慌てた様子でそれを空いた手ですくい上げた。
「あちっ! あーもう……あれ、おしぼりどこやったっけ……」
「そこ。肘んとこ」
「あー……」
 悲しげな顔で手を拭いて冷やす少女を眺めて、坂本はまた息をつく。
「これで全部だよ。他にゴシツモンは?」
 二人は無言で首を左右に振った。それは言うことは無いという意味ではなく、単純に二人とも口の中にものが入っているからだ。
 坂本は虫を追い払うように手を振った。
「じゃ、それ食ったら帰れよ」
「あに言ってんのよ……さっきも言ったけどこんなの……どう考えたって……もぐもぐ……」
「ほっとけって言ってんだよ。つうかもの食いながら喋んな!」
「それに関しても先に言ったな。お前が言うのか?」
「は? なにをだよ」
「放っておけとお前が言うのか?」
「なにが」
「お前は……お前だけじゃないが、帰らなかっただろう。実に迷惑な行いだった」
 ふんと鼻を鳴らしてまた手元の熱せられたプレートの上の肉を器用に切り分ける作業に戻った喜多川の顔には涼しげな笑みが湛えられている。勝ち誇ったような、懐かしむような……
 坂本は思い切り顔をしかめて歯を剥いた。
「古いこと持ち出しやがって」
「俺はつい昨日のことのように思い出せる。あれほど腹立たしいことはなかったが―――」
 やっぱりなにを考えているのかよく分からない瞳は坂本と、それから隣でよく伸びるチーズに悪戦苦闘する高巻を見て、それからこの場にいないはずの『彼』を見た。
「少なくとも今はこうして食事の場を共にする間柄ではあるんだ。友人として、お前に関わろうとするのはそこまで奇異なことでもないはずだ。そうだろ?」
「……お前さぁ……祐介、お前ってマジでギャップが顔付けて歩いてるよな。あんだよ、俺がすっげーダセぇことしてるみたいじゃん……」
「実際そうだろうに」
「うっせ」
 言いつつも、二人の間には険悪な雰囲気はない。決して柔らかくはないが、しかし心地よい感覚があった。
 少なくとも彼らが口先で言うよりもずっと互いを認め合っていることは確かだ。
 そして高巻は、頬張っていたピザを飲み込んで、氷で満たされた烏龍茶で口の中をすすいでからこれらをぶち壊した。
「男子ってさ、ちょいちょい女子に理解できない感じのやり取りするよね。一々そんなことしなきゃ友情確かめらんないの? 一応言っておくけど、河原で殴り合ったりしないでよ。恥ずかしいから」
「台無しじゃねーか!! 今ちょっと祐介っていい奴じゃんって思いかけてたのに!!」
「おい竜司、それは普段俺をいい奴だとは思っていないということか!? どういうことだ!」
 三人はしばらく話し合うべき事柄から外れたところを彷徨った。
 本筋に戻ることが出来たのは喧々諤々とやり合った末に坂本が喉の渇きを訴えて、ドリンクのおかわりを求める必要があったからだ。
 彼はまたこの国で最もポピュラーな炭酸飲料を注いで席に戻った。
「おかえり。じゃあ、ちょっかい出すことにしたんだけどさ」
「あーもうそれでいいわ……頼むから姉ちゃんにバレるようなことだけはすんなよ」
「それはやってみなければ分からんな。で? 杏、そう宣言するということはなにか案があるんだろうな?」
「杏だけに」
「は?」
「え?」
「なんでもねえ」
「言っとくけどそれ、生まれてからここまで千回くらい言われてるからね。次言ったらぶつよ」
「はい、すいません」
 平身低頭と頭を下げた坂本を冷たい目で一瞥してから高巻は口を開いた。
「とにかく、なんかするにしてもソイツの名前は必要でしょ? 私が聞いてきたげる」
「できんの?」
「祐介だってチョロかったじゃん。名前くらいならいけるいける」
「え? チョロ……? えっ?」
「そういうわけだから、竜司、祐介にホシの特徴教えてあげて。そんで、祐介はその似顔絵を描いてぇ、私がそれを見てホシに接触。完璧じゃない?」
「釣り餌がお前ってとこだけが不安だわ……ほんとよく祐介騙されてくれたよな」
「はぁ? なによ! どーゆー意味!?」
「待て! 騙されたとかチョロいとはどういうことだ! 訂正を要求する!」
 喧々諤々―――
 一先ず、高巻の手の中には坂本が目撃した男の横顔が喜多川の手によって描き出された紙ナプキンが握られることとなった。
 必要以上に疲労した三名はそのまましばらく、目的の人物が姿を見せる時間になるまでその場で益体もない雑談をして待つこととなる。
「やっぱさぁ、なに? りゅうちゃん、アンタそのさんのこと……そーなの?」
 その内の中で高巻が瞳を輝かせて問いかける。坂本はやっぱり顔をしかめた。
「うっぜー……イチイチそういう方向に結び付けるのやめろや」
「なんでよ! こんな面白いことないでしょ! どうなのよ! 教えなさいよ! 私とアンタの仲でしょ!」
「どういう仲だよ。うるせえよ。教えねえよ」
「では俺に教えてくれていいぞ、りゅうちゃん。ここまでするんだ、ただの幼馴染ではないんだろう」
「いやもお、ていうか、それホント……マジ……鳥肌立つからやめてくれる……?」
「なにがよりゅうちゃん」
「どうしたりゅうちゃん」
「それだよッ! 分かっててやってんだろ! 楽しんでんじゃねえよ!」
 高巻と喜多川は極めて愉快そうにお互いを見やって肩をすくめた。
 もちろん彼らは坂本が嫌がることを承知の上で彼の幼いころのあだ名を頻繁に使用している。
 最も知られたくない弱味を最も知られたくない連中に知られてしまったことを今さらになって強く自覚して、坂本は頭を抱えた。
「ちくしょう……憶えてろよお前ら……」
「アンタって意外なくらいに自分の話しないんだもん。自分語り大好きみたいな見た目してるくせに」
 どういう見た目だよ。坂本は聞こえるように舌打ちをしてやったが、高巻は一ミリたりとも引き下がらなかった。当然、喜多川も。
「俺はそこまで深く知りたいとは思わんが……端が見えていれば気になるものだからな。どうせ俺たちをかわしても後にはもっと手強いやつが控えているんだ、身の内にある秘密を盗み出される前に白状したほうが身のためだぞ」
 坂本の脳裏に、宵闇のごとき黒の装束に身を包んだ仮面の少年の姿と高笑いが過る―――
 またその傍らには、底を抜けて奈落の奥深くまでほじくり返そうする意地悪な笑みを湛えたオレンジ頭の少女の姿もあった。
 店内にはよく空調が利かされているいるはずなのに、どうしてか彼はぶるりと身を震わせた。
「幼馴染っつうか……まあそうなんだけど。なんつーか……恩があるっていうか……」
 やっぱり嫌々、渋々ながらに語ってやる。
 独りきりの家の中の静寂と夕闇の薄暗さが耐え難いほど恐ろしかった子供のころ、遊び相手を務めてくれていたこと。友達ができてそれらに打ち勝てるようになった彼を称え、己のことのように喜んでくれたこと。どこから知ったのか坂本が陸上の区大会で良い成績を収めたことを聞きつけて彼を過剰なまでに褒め称えたこともあった。
 思い返せば彼女はいつも己を褒めてくれていた。それもまた様々なことの原動力になっていたことにはじめて気が付いて、少年は難しい顔をする。
 別に酷い言葉を投げかけたあの一幕が無くたって、やっぱりきっと、自分は今同じことをしていたに違いない。
 人に語って聞かせて、坂本はやっと己の気持ちの置き所を見つけた気になった。
「ここにいんのも、そんな場合じゃねえってのは解ってる。でも、あの人が殴られてんの見て、黙ってることだけはしたくなかった……」
 それをしたら、もう二度とお前らにだって顔向けできなくなる気がする。
 声と言葉には大きな恥じらいが感じられた。彼が小さなプライドと一人の女性を秤にかけて、女のほうを選んだのは誰が見たって明らかだろう。
 はじめに声を上げたのは喜多川だった。彼は少し―――だいぶ―――奇妙なことを言いだした。
「なるほど、お前にとってあのひとは雲なのだな」
「え? クモってスパイダーマン的な?」
「え?」
「え?」
「ん?」
「……だから、竜司は『竜』司だろう?」
「うん」
「それなら空を飛ぶものなわけだ」
「え? なんで?」
「『竜』司だから」
「え?」
「え?」
「だから……」
「いやもういいわ。後で真パイセンに解説してもらうわ。ゼッテーそのほうが早い」
「えー……なんだこれ、俺が一人だけ恥ずかしいやつじゃないか……」
 両手で顔を覆って恥じらいを示す喜多川を置いて、さて、高巻は我が意を得たと言わんばかりににんまりと笑ってみせる。
「ふっふ~ん? なるほど? あのひとのために? へ~?」
「うっぜ、やめろ」
「なんとでも言いなさいよ。あー楽しい」
 けらけらと笑う少女は完璧なくらいに愛らしいが、しかしそれと同じくらい腹立たしい。坂本は思わず、また大きな声を出しそうになって―――
「そういうひとが酷い目に遭わされて、黙ってなんていられないよね。絶対やり返してやろ。任せて!」
 小さなガッツポーズと満面の笑みを差し向けられて、力なくテーブルに突っ伏した。
 いったい誰が、こいつの『コレ』に勝てるんだろう? あるいは同性であれば効果は無いんだろうか?
 だからといって女子になりたいなどとは、坂本は決して思わなかった。

 時間になって、高巻は一人で先に店を出ていった。それを見送る男たちの心地ときたら―――彼女の身を案じるのと、作戦の行方を案じるのとでいっぱいだった。
 しかし結果的にそのどちらもが無縁であった。
 高巻はあっけらかんとした様子で後れて店を辞した二人に合流すると、名前どころか男がと同じ研究室に所属する二つ上の先輩であるということまで明らかにしてみせた。
 坂本に至ってはそこで初めてが理学部の修士課程にあることを知る始末だ。性差とそれ以上に様々なものの『力』の差を思い知らされた気になって、彼は街灯のポールに身体を預けて項垂れた。
「あとこれ、アイツの連絡先」
「チョロすぎだろ。祐介レベルかよ」
「おい」
 また騒がしくなりそうな気配を感じ取って、さすがに三度目はと高巻がこれを阻止する。
「んで、どうする? もうちょい『お話』できそうだけど?」
 こともなげに言ってのけて、冷めた目で己のスマートフォンに目を落とす彼女に坂本は断固と首を左右に振った。
「アホか。そこまでさせられねぇよ」
「では他に手立てがあるのか?」
 首を傾げた喜多川には沈黙を返す。
 そもそもこの一件は坂本の極個人的な厄介ごとだというのに、現状すでに二人の手をしっかり借りてしまっているというのがいただけない。これは怪盗団の掟―――全会一致に抵触していると考えていいだろう。
 だからといって、帰れと言って帰る連中ではないこともよく分かっている。
 しかしよく考えてみれば……
 喜多川は『護衛』と言った。それは『監視』に寄越された高巻のためだ。
 そして高巻を派遣したのは、他でもない怪盗団の頭領である。
 坂本は今日一番、特大のため息をもらした。
 つまり、初めから今日の彼は『ジョーカー』の手のひらの上だったのだ。