少女が一人が足音を殺しつつ、広い室内を歩き回っている。
 いくつもの事務机が並べられた無人の室内は静まり返り、彼女が棚や引き出し、机の上に置かれた鞄を漁る小さな音が不気味なほどによく響いた。
 室内は静寂とともに窓から差し込む紅い光に照らし出され、その手に迷いは見当たらない。
 しかし目当ての物を見つけることはできなかったのだろう。少女は肩を落としてため息とともに誰に聞かせるつもりもない呟きを漏らした。
「やっぱり、生徒会長が管理しているのかな」
 声にはうっすらと疲れが滲み、背後の机に軽く尻を乗せたその足元もどこか覚束ない。
 ―――自身にも疲労がピークに達している自覚があった。
 このなんだかよくわからない空間に籠ってもう三日も経過している。初日こそ走り回らされてくたびれたりもしたが、それだって長い時間ではなかった。後はほとんどの時間を休むか歩くかで過ごしているから、肉体的な疲労という意味ではさほどではない。
 それより、わずかな雑音やにおい、生き物の気配といったものを感じられないこの空間に対する精神的な消耗のほうが大きかった。
 人はおおむねほとんど、主観によって成り立つ存在だ。自己を他者とのコミュニケーションや情報によって成り立たせている。けれどこの空間におけるそういった他者の存在はゼロに近く、五感に訴えるものさえ欠いた空間に長く身を置いているとまるで自分自身が希薄になってしまったような気さえしてくる。
 人というものの存在のあやふやさを実感して、は重苦しい息を吐き出した。
 ……もしかしたらこれは夢なのかもしれない。でも、夢だというのなら、いったいどこからが夢なのだろう。今日の朝からか、それとも三日前からか、あるいはもっと前から、それこそ生まれてきたこと自体が夢なのかもしれない。
 暗く沈んだ思考こそが疲労の証だった。
 はそれらを振り払うように腰を上げ、よしと気合を入れなおすとぐっと顔を上げた。
「とにかくあとは生徒会室だけなんだから、最悪ドアを壊してでも……」
 あら、とこの発言を面白がるような声が遮るように割って入った。
「それはちょっと困るわね」
 にとっては一日ぶりに聞いた声だ。振り返って、彼女は警戒をその身に漲らせた。
「せ、生徒会長―――」
 瞠目する少女にクイーンはいたずらっぽく笑って腕を伸ばして、その視線に愛らしいマスコットの取り付けられたキーホルダーと、それに繋がる一つの鍵を晒してやった。
「探し物はこれ?」
 ゆらゆらと揺れる鍵を食い入るように見つめつつ、は歯を噛んで後退る。
 退路を探す眼は、しかし近くの扉に背を預けて腕を組む狐面を見つけて悔しさを滲ませた。
 静かな職員室にクイーンが一歩前に踏み出す音が響く。
「あなたはいったいなにをしようとしているの?」
 彼我の距離はまだ十分離れていたが、それでも妙な動きをされては困るとクイーンの目は油断なくを見据えていた。
さん―――」
 呼びかける声にははっとそちらに顔向けた。いつの間にか開け放たれた窓から生ぬるい風が吹き込んでいて、その窓枠には黒衣の少年が腰を掛けている。
 ジョーカーは仮面の下の目を細めてに問うた。
「君は言っていた。この空間に迷い込んだ理由に心当たりがあると」
 それは一体なんだ?
 鋭い目つきに、は押し黙った。
 するとジョーカーの傍らの影に立っていたパンサーが焦れたように口を開く。
「昨日、相談に乗れるかもって言ったの、ホントだから。ウチらこういう場所のことちょっとは詳しいの」
 そう言って彼女の手はフォックスが塞ぐのとはまた別の出入り口に立ち塞がるモナを示した。
 彼は応えて大きく首と尾を縦に振っている。
「今回ばかりは解らないことも多いが……だが、無力ではないはずだぜ」
 また彼の隣で腰を落としていたスカルが立ち上がりながら、意外なくらいに優しい声で訴える。
「そんでも嫌ってんなら今度こそ、引きずってでも連れ帰ることになるけどよ……それはお互いイヤだろ?」
 だから、と促すスカルの目に、は逃げ道を探すことを諦めたようだった。
 それでも彼女は沈黙した。そうすることで状況の変化が訪れることを待っているかのように。
 耐え難い苦難や苦痛を前にした人が表す反応は様々だ。抗って戦おうとする者、なにもかもを捨て去ってでも逃げ出そうとする者、彼女のように凍り付いて身動きの取れなくなる者―――
 いずれもが正解であり、不正解と言える。
 人類という種がここまで繁栄し版図を拡げられたのは単に多様性によるところが大きい。戦わねばならない状況に強い者と、逃げるべきときに首尾よく脱せる者、息を殺して嵐が過ぎ去るのをじっと耐えることができる者、状況によって生き残れる者は変わるだろう。あらゆる状況において、全滅を避けるために人類は様々なかたちを保存することを選択したのだ。
 だからというわけではないし、人類全体のダイバーシティなんてお題目を掲げるつもりもジョーカーにはなかった。彼はただ彼女が怯えたり、「ギャッ」と鳴いたり、沈黙して動けなくなることを非難する気になれないでいるだけだ。抗うことさえ許されない苦難を前にした者の心地を、彼はよく知っていた。
 そしてまた、力になってやりたいと思う。
 大した理由ではなかった。
 たった独りで死者を偲ぶあの女性のように誠実でありたい。それだけのことだ。
 果たしては誠実であろうとする少年の眼差しを受けて応えた。
「雨宮くん、君は……」
 その目はジョーカーの仮面の下、雨宮蓮の瞳を覗き込むようにじっと見つめている。
「君は本当に皆が言っているみたいに、傷害事件を起こして転校してきたの?」
 投げかけられた声に避難の色は無かったが、それでも雨宮は呼吸を忘れて静止した。
 今やだけでなく仲間たちの全員が視線を彼に向けている。もちろん怪盗団の面々はこれが悪意による理不尽な仕打ちであると知っているし、彼の口から語られたことが真実だと信じていた。
 このために彼は強制されたわけでもないが、己の無実を訴えて首を振った。
「違うってこと?」
「ああ―――」
 少年はいつかも仲間たちに語った己の忌まわしい過去の経験を語って聞かせてやった。口にするのにも苦痛が伴うような記憶を、それでも彼は伝えてみせた。
 ……長い話ではなかったが、語り終えるころには彼の喉はすっかり渇いていた。
 緊張によってもたらされる喉の渇きにを誤魔化すようにさすりながらに目線を向けると、彼女はまだなにかを思案するようにどこか遠くを睨みつけている。
 やがて彼女はジョーカーをではなく、取り囲んで退路を塞ぐ彼の仲間たちをぐるりと見回して口を開いた。
「あなたたちは今の話を信じたの?」
 ピクッとジョーカーのグローブに包まれた手がわずかに動いた。その仮面の下の表情は、最も近くに立つパンサーにも、逆光になって窺うことができない。
 雨宮はそれを幸いと思う。知られたくはなかった。己がの発言に怯え、恐怖して拗ねたような心地になっていることを。
 消去法で担がれたリーダーという立場であっても、彼はすでに怪盗団という場所こそが己の心の置きどころであると定めていた。それがもしも今己の本性を―――仮面の下で恐怖する姿を知られて、失望されて、失われたらどうしよう。先に信じて受け入れてくれた彼らも、今度は見限るかもしれない。
 『ジョーカー』という仮面の下に隠された『雨宮蓮』の素顔を見られたら、嫌われてしまうんじゃないか―――
「当たり前だろうが。バカなこと訊くんじゃねぇよ」
 必死になって震えを抑え込もうとする彼の耳に、苛立たしげなスカルの声が飛び込んだ。
 視線をそちらに向けると、長物を担いだ彼がを睨み付けている。
「コイツがンなことするわけがねえもん。つうか、そもそもさんを助けよーって俺らをここに連れてきたのはソイツだし」
「そうだよ……!」
 同意したパンサーが一歩踏み出して詰め寄った。
さんはジョーカーの……彼のこと知らないかもだけど、知ったら絶対ウチらにそんなこと訊いたりしないハズだよ」
「まっ、このバカなお人好しがそんな大それたことできるハズもないしな。ワガハイに人の世のことはよく解らんが……少なくとも、コイツはそこまで腐った男じゃないぜ」
 フンと鼻を鳴らしたモルガナが尻尾をひと振りしながら、何故か自慢げに胸を張る。
 フォックスはまた、明らかな怒りのこもった目をに向けていた。
「くだらん。我が身可愛さに浅はかな偽りを口にするような男にこの俺が従うはずもない。そいつへの不信は俺たちへの侮辱として受け取るぞ」
 ぽかんとして言葉もないジョーカーの耳に、未だ手の中で鍵を弄ぶクイーンの小さな笑い声が届く。
「侮辱とまでは言わないけど……良い気分じゃないわね。つまり、私も信じてるってことかな」
 ふっと口元を緩めた彼女は、ちらりとジョーカーに視線を送った。
 彼女だけでなく、仲間たち全員が、いまや皆を取りまとめて居場所を与えた少年に目を向けている。
 それらは一様に肯定を求めていた。
 お前を信じさせてくれと訴えている。
 雨宮は頷いて返した。それでいいのだと、信じてくれと心を籠めて。
 ふっ、と、吐息のような、微笑か、あるいは失笑のような音が彼らの間を繋ぐものを嘲笑うように響いた。
 は笑っていた。
 雨宮が得た至宝とも呼べるものをその眼で確かに見て、妖しく嗤ってみせている。
さん……?」
 たじろぎながら、それでもパンサーが名を呼ぶと、彼女はゆっくりと顔を上げて、再びジョーカーを見つめた。
 彼は瞠目して呼吸を忘れる。
 向けられた瞳に宿っているのが、嘲りや侮蔑などではなく、明らかな羨望だったからだ。
「羨ましい……」
 また彼女は己の感情を口にもした。
「君は信じてくれる友達に恵まれたんだね。いいなぁ……」
さん、君は―――」
 はわずかに首を傾けて、続く彼の言葉を奪った。
「うん。そう。誰も私の言うことを……見るものを信じてくれなかった」
 四方から向けられるどういう意味だと問う目線に彼女は今度こそ答える。
「こっちに越してくる前まで、私、いじめを受けてたんだ。物が隠されたり、無視されたりなんてしょっちゅうで、ひどいときには階段から突き飛ばされたりもした」
 力なく笑う彼女の強烈な過去の告白に、少年たちはギョッとして身を強張らせた。
 現在のの周辺にそのような陰りは見当たらないが、一体なにが原因だというのか。
 問いかける目線にまた彼女は応えた。
「子どものころからずっと、私には他の人には見えないモノが見えてた」
「え―――?」
「それが他の人に見えてないなんて知らなかった。だから不思議で仕方がなかったよ。どうして皆が私を嘘つきって呼んでくるのか……」
 あ、と誰にともなく声が上がる。
 他者に見えない彼女だけが視認する存在―――それが彼女の『ビビリ癖』の原因であり、怪盗団の面々に怯えてみせ、仮面の下の正体を知り、ペルソナを目撃しても驚かなかった理由か、と。
 またジョーカーは深く得心してみせる。
 この空間で彼女が平然としている理由はつまり、このような―――怪異と呼ぶものたちが闊歩する様こそが彼女にとって常の世界であるからだ。
 それに彼女はここで一人きりだった。己が目撃する姿を他者に見られる心配をする必要が無い。
「お父さんもお母さんも、ちっとも理解してくれなかった。お前が変なことを言うからだっていつも怒ってた。嘘をついて気を引こうとしてるって、怪我をして帰ってもそうだと思われてた……さすがに、入院沙汰になったときは考えを改めてくれたみたいだけど」
 そして家に帰りたがらなかった理由はこれだろう。結果的に彼女は今この土地に越して秀尽学園に通ってはいるが、未だに両親の根本的な理解を得られてはいないのだ。
 彼女の表情こそがそれを皆によく教えていた。続けられる言葉も。
「私は……私は、だから、ここにいるよ。ここなら誰も私が見ているものを否定できない。私を必要としてくれる子もいる。手間をかけさせてごめんなさい。もう気にしてくれなくていいから―――」
「ちょっと待って」
「えっ?」
 制止する声には困り顔を向ける。声をかけた張本人であるクイーンもまた困惑を浮かべて問いかけた。
「あなたを必要とする相手って誰? まさか……」
「あの黒髪の女子か?」
 クイーンの言葉を引き継いでスカルが前に出る。
 はやはり困ったように頷いてみせた。
「う、うん。一昨日から一緒に……あ、今は別のところで探しものを」
「待って待って、探しものって?」
 これはパンサーが。
「え、えっと、なんだったかな、物は分からないんだけど、そう大きな物じゃないはずだって。校内で人目につかないように隠せるくらいだから……」
「なんだそりゃ。そもそもなんで探してるんだ?」
「ええっと……友達が隠したんだって言ってたかな。何年かしたら一緒に見ようって」
 モルガナの問いに答えて、は懸命に記憶を探る仕草をしてみせる。
「卒業記念に、お互いと未来の自分に、手紙をって」
「タイムカプセルか?」
「あ、それ」
 ジョーカーの指摘にはポンと手を打った。
 卒業記念のタイムカプセル、学年やクラス単位ではなく親しい友人のみで企まれたそれを探してくれと訴える存在……怪盗団の脳裏に平坂美穂の枠に収められた顔が過った。
「けれど彼女はその場所を知らない……となれば、大賀先輩が隠したのかしら」
 クイーンが言う大賀というのは、少年たちがつい先ごろ平坂美穂が亡くなった事故現場で出会った女性の名だ。
 そういえば彼女と新島は生徒会を通じての知り合いのようだったし、が生徒会室の鍵を探し求めていたこととも符合する。
 死んだはずの平坂らしき女生徒が、その友人とともに作成したタイムカプセルを探すためにをここに導いたということか?
 思案はしかし、怪盗団の内の一人が激しく床を踏み鳴らしてに詰め寄ったことで霧散する。
「そんなことはどうでもいいッ! さん!!」
「ぎゃあっ!」
 色気のない悲鳴を上げた彼女の肩を、フォックスが掴んで揺さぶっていた。
 ……は過去の経験から、長らく己の目にしている世界の様子を秘匿し続けてきた。それは己を守るための仮面だ。雨宮蓮が『ジョーカー』の仮面を付けるのと同じことだろう。ペルソナのように具体的な形を持たないそれは現実に『ビビリ癖』として現れてはいたが、間違いなくそれは恐怖と戦うための彼女なりの術だった。
 恐怖とは即ち、真実を口にしているのに信じてもらえなかったり、嘘つき呼ばわりされたりすることへの隠しようもない感情だ。
 けれどこのとき、すでにこのような非日常を日常の一部としている怪盗団を前にして、それはまったくの杞憂に過ぎなかった。
「―――素晴らしいっ!」
 最も強くそれを彼女に教えたのは明確な興奮に打ち震えるフォックスの姿だった。 
 彼は怯え戸惑うの様子など意にも介さず、矢継ぎ早に己の欲するところを投げかけた。
「つまり、それは、幽霊ということだな! やはり足はないのか!? 死んだときの姿をしているのか、それとも生前の!? あるいは俺たちのペルソナやシャドウたちのように悪魔や異形の姿を取っているのか―――」
 そして彼は彼以外の全員の手によって直ちに鎮圧される。
「ごめんねさん、びっくりしたよね。大丈夫、あれ、基本的には害はないから。たぶん……」
 やれやれと息をつきつつを保護したパンサーの背後で、フォックスがスカルとクイーンの腕の中で水揚げされた魚のように跳ねている。
「なにをする!? 離せお前たち……ッ!」
「大人しくしてろバカ!」
「あんまり暴れると痛いよ」
「あっ、痛い……!?」
「暴れなければ痛くないからね」
「……本当だ」
「うわっ!? 急に大人しくなんなよ!」
「どっちなんだ。大人しくしていろと言ったり、なるなと言ったり」
 これに一歩下がったところからジョーカーが命じる。
「大人しくしていて」
「分かった」
 再びの静寂。
 ジョーカーは手を叩いて仕切り直した。
「ええと、つまり―――さん、君は日常的にいわゆる……『幽霊』みたいなものを目撃している、と?」
「あ、はい。まあ……そうです……」
「ふうん……」
 頷いて、ジョーカーは話の筋道を元に戻して事態の解決を図ろうと努力した。
 死した少女、タイムカプセル、現実への影響、幽霊が見える……
 幽霊が!? 見えるって!?
 努力は徒労に終わった。彼は落ち着いたふりをして、好奇心のまま、思いついたままを目の前の少女に押し付けた。
「……俺の地元の……近所の山に火葬場があって、その近くの林に、古井戸があって……」
「へ?」
「噂によると怖い人たちがその中に死体を捨てているとか、ヤバいものが封じられているとか、肝試しに行った人がそこで行方不明になったとか―――」
「え……えっ?」
「一緒に行って真実を見定めないか?」
「は?」
 怪訝そうな顔をした彼女を挟んで、フォックスが再び顔を突き出して彼を阻んだ。
「待て! ずるいぞジョーカー! さん、そんな遠い所よりもっと身近な……俺と八幡に行かないか!? 」
 彼はまた彼女の肩を掴んでぐるりと向きを変えさせる。
「えっちょっ」
「ナニソレ? ……じゃあさ、あのさ、渋谷駅の東口にさ、コインロッカーあるじゃん? あの前で写真撮ると変なのが写るって……見たら分かるの?」
 呆れつつ、パンサーもまた肩に触れてぐるりと回す。
「ど、どうだろっ」
「えっ、じゃあ俺んち近所に小島てる物件あんだけど、正直前通ンの怖いからマジなのか見てくんねっ!?」
 スカルもまた彼女を一回転させた。
「い、いいけど」
「……ねえ、私のお姉ちゃんを見てもらうことって……あの、時々肩が重いって帰ってきて、そういうときなぜか必ず私が金縛りに遭うんだけど……!」
「それは、どうでしょう……っ」
 最後にクイーンが両肩を掴んで向き直させて、合計して彼女を二回転させる。
 は目を回してその場にへたり込んだ。
 その目は信じられないものを見たかのような困惑に彩られている。
「し……信じるの……!? 幽霊だとか、そんな話を……」
「え? だってウチらそういうのパレスで山ほど見てるし……そもそも警戒されたら服が変わるってとこからしてファンタジーじゃん。ねぇ?」
「んだな。あーいうのが現実にいないって言い切ったらペルソナってなんだよって話になるし。心の世界ってのもどうなんの。メルヘンかよ」
「世に溢れる幽霊画のすべてを想像の産物と片付けるのはナンセンスだ。なんなら所有者が悲惨な末路を辿るという呪われた絵画というものだってあるのだから、幽霊くらいいてもおかしくはないだろう」
「私はあまり肯定したくないんだけど……悪魔の証明よね。砂漠にあるかもしれないたった一つの黒い砂粒を見つけることより、一つとして無いことを証明するほうが難しいわ」
「パレスをはじめ、実際に人の心が様々な姿で具現化しているんだ。そういった存在が不安定な形であらゆるところに現れても不思議じゃないだろうな」
 好き勝手に己の思うところを吐き出す怪盗団の面々に、ジョーカーはにっこり笑ってに手を差し伸べつつ、こう言った。
「俺はもともと肯定派。さん、もっと詳しく話を聞かせてほしい。ID交換しない? どこ住み? 電話していい?」
 が手を取るより前に彼はパンサーとクイーンによって引き離された。
「やっぱ話を聞くのが一番早かったな」
 放り投げられた頭領を受け取ったスカルがため息とともにもらす。腕を固める彼に苦悶の声を上げながら、ジョーカーはそうだなと肯定してやった。
 茫然とそれを見上げるは、震える声でもう一度問いかけた。
「信じるの? 私を?」
 少年たちは事も無げに首を縦に振った。