……
 同日夜。
 怪盗団の団員が集うSNSのチャットにて。
『で、竜司はどうだった?』
『親孝行出来たか?』
 唐突にジョーカーが語りかける。
 スカルは直ちに反応した。
『なんの話ですか?』
『いや、バレバレだから。一人だけ急に走って帰るし』
 わざとらしい敬語にパンサーが絡み、続ける。
『まあ私も、なんとなく親に電話とかしちゃったけど』
『あら、いいわね。どうだったの?』
 勉強の手を休めていたらしいクイーンが加わってくる。
『別にフツーだったよ。元気そうだった』
『てか私は親と電話とか珍しくないし』
『竜司はもっとお母さんの手伝いとかしてやんなさいよ』
 再び自分に矛先が向けられたことに、スカルが連続した短い返信を送る。
『うっせ!』
『ほっとけ!』
『ばーか!』
『子供か』
 最後の発言はジョーカーである。とは言え、彼もまた仲間たちに知らせていないまでも家族に久しぶりの連絡をしていた。
 なんてことはない。ただ自分は健康でいること、友達ができたこと、成績は上々で、前向きに生活できていること……それだけだ。受話口の向こうからは戸惑ったような反応が返されたが、それでも最後には「また電話しなさい」と言ってくれた。
 スマートフォンの液晶に目を戻すと、クイーンが報告する番になっている。
『私も、久しぶりにお姉ちゃんと長くお話したかも』
『大したことは話してないけど』
『ほら、と卵焼きの話をしたじゃない?』
『それで甘いのを作ってみたんだけど』
『お姉ちゃん、いつも通りと思って口にして、むせてたわ』
 画面の向こうでクイーンが笑みを浮かべているのがありありと想像できる。
『美味しくなかったかな?』
 と、話題に割って入ったのはブレイドだ。
『そんなことないわよ』
『いつもと同じと思って口にしたから驚いただけ』
『というか、大丈夫なの?』
 問いかけに、ブレイドは間を置かず答えた。
『うん』
『お母さんさっき帰ってきたんだけど』
『具合が悪いからもう寝るって』
『ご飯も食べずに部屋に行っちゃった』
 うーん、と少年たちは唸る。
『改心自体は成功してるはずだよ』
 答えたのはパンサーだった。
『ただ効果が出るまでにタイムラグがあるの』
『どれくらいの期間かは人によるんだけど……』
 これを受けて、クイーンが補足する。
『正確に言えば』
『改心された人がこれまでの自分の行いを受け止めて』
『具体的な行動に移るまでに要する時間がまちまち、ということね』
 ブレイドは頷いて応える。
『そっか』
『じゃあ別に病気とかじゃないんだね』
『よかった』
『ありがとう』
 少年たちは各々の言葉で「どういたしまして」と返した。
 さて、ここに至って一人だけチャットに姿を現さないフォックスに話題は移る。
『あいつ反応ねーな』
『寝ちゃったんじゃない?』
『今日は流石にね』
『帰り際妙にテンション高かったのが気になる』
『あ、祐介なら』
 ブレイドの言葉に彼女を除いた全員が静止し、発言の続きを待った。
『良いイメージが浮かんだから描くって』
『ピピっときた!って言ってた』
『今頃熱中してるところじゃないか』
 ああ、なるほどと皆が画面越しに頷きあった。
 激戦を乗り越えた後の興奮がまた彼のインスピレーションを刺激したのだろう、と。
『ところで
『どうしたの高巻さん』
『それー……』
『どれ?』
『あーそれ俺も気になってたわ』
『坂本くんも? なに?』
『言われてみればそうね』
『新島さんまで』
『そういえば確かに』
『どうしたの?』
 沈黙。
 やがてジョーカーが口火を切った。
『絵を描くのに没頭してるんだって?』
 ブレイドが答えた。
『祐介? うん。多分』
 パンサーが飛びつく。
『それー!』
『さっきからどうしたの高巻さん』
『だからそれぇ!』
 ブレイドは疑問符のスタンプを返した。
『ううーううー』
 通信回線の向こうでパンサーが涙目になっている姿を想像して、ジョーカーは苦笑する。

『はい』
『名前で呼んでやって』
『え?』
『リピートアフターミー』
『ん?』
『杏』
『杏』
『やったー!』
『え?』
『真』
『真』
『なーに?』
『え?』
『竜司』
『竜司』
『おう、よろしく』
『え?』
『俺にもその調子で頼む。じゃあそういうことでおやすみ』
『ういーおやすみー』
 スカルの発言を最後に、チャットは途切れる。
 ブレイドはしばし考えた後、意図を理解して枕に顔を突っ伏した。