は唇をわななかせて震えていた。
目の前には友人の姿があって、普段なら麗しいその姿にため息も漏れようものだが、今ばかりはそういうわけにもいかなかった。
なにしろ彼女の手には、一本の黒光りする細長い棒がある。軟性をもったそれは一度振るわれると空を切ってよくしなり、一拍の後に激しい風切り音を響かせた。
「なにそれ」
「乗馬鞭だけど?」
「なんで」
「春が馬飼ってるって聞いてさ、いいなーって……」
「意味がわからない。だいたいそんなもので叩かれて痕が残ったら」
「誰かさんに心配されちゃうって? ふふッ、どこを叩かれると思ったワケ?」
「ちがっ……そんな……」
「大丈夫だって。これ、プレイ用だから」
「大丈夫な要素が見当たらないんだけど……」
「ふっふっふ……さあ! アンタのトラウマ、私がキモチイイに塗り替えてあげる!」
「わああああ!」
高巻によるへの尋問
内容は『どこまで進んだの?』
「前に話したところからなんにも進んでないよ! あっほんとに痛くないなこれ……」
「でしょ? 音だけは派手なの。さ、ホントのこと言いなさーい!」
前置き終了
船着き場のジョーカーと双葉
「かま2」
「完全にそれ」
「みーのむーし」
「ぶらりんしゃん」
「なに歌ってるのあなたたち……ほら、こっちに来なさい」
不思議なやり取りを続けていた少年と少女に、新島が手を打ち鳴らして集合を促した。
一堂に会した若者たち―――怪盗団の面々の前には、紺碧に輝く海がある。
奥村の父の所有していた無人島
プライベートビーチと別荘
管理人に休みをやって三日間貸し切り
「温泉じゃないけど露天風呂があるよ」
「すげえマンガみてぇ」
喜ぶ女子たちと思案顔のジョーカー
一同は大型クラスのスポーツセダンクルーザーで海に出る
めっちゃはしゃぐ杏と竜司
呆れる真とニコニコの春
ゲームに興じるジョーカーと双葉、そのそばで丸まるモルガナ
と喜多川の姿は船内に無い
二人は後部デッキで海を眺めている
「美しい……」
「だね。こうしてると、ほんとなんか……すごいねぇ」
「そうだな。この船もレンタルではないんだろ?」
「らしいよ」
「不思議な縁だな」
「まあ、あんなことがなかったら多分知り合うこともないような集まりだよね、私たちって」
「ふッ、たしかに。そうかもしれんな」
「私たちも……こういうふうにはなってなかったかもね」
「……そうだな」
「ね、祐介」
名を呼び、腕を引いて、はその日除のために被った帽子の大きなブリムの下に彼を誘った。
船先が波をかき分ける音と海鳥の鳴き声だけが耳を支配する―――
それすらも追い払って、喜多川は唇に触れるその柔らかな感触だけに意識を向ける。
一瞬のことだったが、何時間でもそうしていたいと思わせる心地よさがあった。
「……今したこと、皆には言っちゃ駄目だよ」
互いの吐息がかかる距離で囁かれた言葉に、彼は子供のように素直に頷く他なかった。
とうちゃこ
ビーチで遊んでから別荘へ
玄関ホールからリビングとダイニングまでがほぼひと繋がりの大広間
リビングにあるボウウィンドーからは海と山が一望でき、山の頂上には木々から突出すようにして先端を覗かせる尖塔がある
サーキュラー階段が二階へ繋がり、それぞれの寝室があてがわれる
リビングの暖炉の前に集合する一同
窓から尖塔を眺めるジョーカー
「この島曰くとかあったりしないの?」
「そんなのあるわけないだろ〜」
「あるよ?」
「えっ」
「この島に人が住んでいたころ、集落に独自の土着宗教が根付いていたそうなの。今は当然途絶えているみたいだけど……海の底には荒神が眠っていて、何十年かに一度目を覚ますとか。そのとき海は濁り、世界は凍りついたかのように静止してしまう。そして長い間眠っていた神様は当然お腹がすいているから、近隣の魚はみんなこの神様に食べつくされちゃう。だからこの島の人々や近くにくる漁師さんたちは、毎月この神様が眠っている間もお腹を空かさないよう、海に供物を捧げていたって。もっと古い時代になると、目覚めた荒神様に人身御供を捧げることもあったとか」
「ひとみごくーって……まさか」
「生贄だな。多くは女性が捧げられるというが……」
「うん。巫女として供されていたそうだよ。それでね―――」
「まだ続くの!?」
「あら、これからが本番だよ?」
「よしこい」
ジョーカーはわっくわく
「私たちが今いるこことは反対側の瀬に廃村があるんだけど、昭和の初めのころ、そこでおかしなことが起きたそうなの―――」
駐在所から本土への定期連絡が途絶えたことを不審に思った警察がこの島を訪れた
すると、島唯一の集落には人っ子一人見当たらない
漁に出ているにしても、女衆も一人も見つからないし、集落の様子がおかしい
「どこの家も巨大な生き物……象なんかよりよっぽど大きなものに踏み潰されたかのように潰れていた。じゃあ、なにかがあって島民全員が亡くなられたのかというと、そういうわけでもなかった。島民は遺体すら残さずに消えて、どこを探しても見つからなかったんですって。ただ一人、あの尖塔の足元で亡くなっている女性がいた以外は……もしかしたら、この女性は例の神様に捧げられた最後の生贄だったのかもしれないね?」
真が失神しそうになっている
「あはは、まったく、イマドキそんなものを信じるなんてナンセンスだ。子供っぽいんだから……家が潰れていたのは雪がなにかじゃない」
「でもここ、かなり南の方でしょ?そんな家が潰れるほど降るかな?」
「九州にだって雪は降るよ」
鼻で笑って部屋に戻る
「お気に召さなかったのかしら……」
「いや、あれはビビってるだけだ。あいつは興奮するか怯えると口数が増える」
「あー……」納得
露天風呂
ジョーカー「覗こうよ」
竜司「死ぬぞ」
祐介「殺されるぞ」
モナ「チリも残らんぜ」
もめる男子
当然バレる
「アンタたちぃっ!」
何故かモデルガンやらをしっかり持ち込んでいる女性陣
ナビと裏切ったモナを司令部に据えて追撃戦が行われる
①クイーンVSスカル
ガチ目の肉弾戦
さすがに竜司は本気を出せない
もちろん真はそれを承知している
「竜司、武闘派一派の次席はあなたに譲るわ」
「今日から私が―――筆頭よ!」
ブレーンバスターニイジマ式
やわらかな土と落ち葉の積み重なった場所を選んで落としたのは、彼女の最後の慈悲かもしれなかった。
ジョーカーとフォックスは二手に別れている
「ここで別々に逃げたようだね」
「どうする?」
「ここまでの足跡の様子を見てると、彼は山歩きに関して一日の長があるみたい」
「そうだね。それに、祐介みたいに大きいのは、こういう地形ではかえって不利だったりするものだ」
「じゃあ、私と春、で別れよっか」
「うん。私も祐介は自分の手で仕留めたいし……」
「お手柔らかにね?」
「……狐狩りだ! タリー・ホー!」
「、楽しそー……」
「私たちも行こう。逃さないんだからっ!」フンスッ
②フォックスVSブレイド
追い詰める
「待て!よせ!」
「命乞いするくらいなら初めからやらなければよかったんだよ」
「やってないだろ!」
「でもリーダーに籠絡されそうにはなってたよね」
「それは……見れるかもとなれば、俺とてやぶさかではない」
「正直さは時として仇となるっていうのは、きみを見てるとよくわかるね……一発くらいはくらっておきなよ」
発砲をすんでのところで回避した喜多川は転がった先に一枚の布切れを発見する
「なんだこれ」
「ん? どうしたの」
「こんなものが落ちていた」
「どれ。ううん? だいぶ大きな……テーブルカバー……?」
「シーツかなにかが別荘から飛んできたのかもしれんな」
「それにしては形が……あ、もしかして……」
「……?どうした、おい……」
③ジョーカーVSパンサー+ノワール
「お待ちなさいっ!!」
「そんなにハダカが見たかったの!?」
「そりゃ見たいに決まって……違うそうじゃない! お約束として……!」
「なにがお約束よ! イマドキそんなんウケないっての! こら避けるなーっ!」
「避けなきゃ痛いだろ!」
「あっ!ずるい!」
「ずるくない!」
逃げ切ろうとするジョーカーの前にフォックスが現れる
「うわっ!」
「ぐえっ!」
「あ、祐介。は?逃げ切ったの?」
「は……ここに来なかったか?」
「え……来なかったけど……」
「なにがあった」
「わからん。が突然走り出して……」
「どっち?」
「この方角だ」
「こっちって……えーと……」
「……さっきの話の、尖塔がある方向だよ」
「……俺たちで探しに行ってくる。シーバー一つ寄越してくれ。そっちは双葉に誘導してもらって、あとの二人と合流してから追いかけろ、いいな?」
「わ、わかった……」
「気をつけてね。崖なんかはないと思うけど……勾配がキツいところもあるから」
「うん。また後で」
視点は女子側へ
双葉の誘導によって合流し、尖塔へむかう
ぼう然と立ち尽くす男二人
「いた!どうしたの?は?」
喜多川が青い顔で尖塔を指し示す
その足元でが座り込んでいる
「なんだいるじゃん……って……」
「なにしてんだのやつ……」
はなにかを抱えてあやすように腕を揺らしている
異様な雰囲気である
「と、とにかく、見つかったんだし、戻りましょう」
「うん。ほら、、帰ろう?」
「……駄目だよ……」
「え?」
「この子が寂しがるから、帰れない……」
「うっ」
は赤ん坊ほどの大きさの石をおくるみで巻いたものを抱えている
「こ、この子って、誰もいないじゃん……」
「なに言ってるの、杏。ああ、ほら、よしよし……大丈夫だよ、きみは一人じゃないんだ……あの人も、必ず戻ってきてくれるからね……」
突然ナビがトランシーバーのむこうで悲鳴を上げる
「ちょい!ちょいちょいちょいおまえらどこにいるんだ!なんだこれ!なんだよこれぇ!」
「え?え?」
「誰が泣いてるんだよっ!うるさいっっ!!」
「え―――」
糸が切れたようにが頽れる
「っ!」
担いで別荘へ戻る
双葉とモルガナが青い顔をして待ち構えている
「っ!? うわあ、なんでなんで!?」
「とにかく寝かせてあげよう? こっちへ」
春と杏を除いた面々で話し合い
「それで、なにがあったんだ?」
「……揉み合って、倒れた際に布を掴んだんだ」
「布?」
「が抱えていた石があっただろう。あれを包んでいた布だ。シーツかなにかがここから飛んできたのかと思ったんだが……」
「……おくるみよね、あれ」
「おくるみってなんだ?」
「赤ちゃんをお洋服の上から包む布のこと。昔の人はみんな使っていたんですって」
「ふうん……でも、なんでそんなものがあそこに?」
「わからん。ただ、はあれを掴んだ途端に尋常ではない様子で走り出していってしまった。追いかけたが、気が付けば見失ってしまっていて……後はお前たちも知っている通りだ」
「……双葉、誰かが泣いてるって言ってたな」
「う、うん。ノイズと一緒にすっごい泣き声がして……」
「ワガハイも聞いてたから聞き間違いとかじゃないぜ。ただ、あれはまるで……」
「まるで?」
「子供の……すごく小さな、赤ちゃんの泣き声みたいだった……」
シーン
の様子を見ていた杏がリビングに
「目が覚めたよ!」
喜多川が飛び出していく
「!大丈夫か!」
「きゃっ!もう、ドアは静かに開けなくちゃダメでしょう? それに、女の子の部屋なんだから入る前にノックも!」
「ご、ごめんなさい……」
「、起きれる?」
「うん……あの、祐介……一体なにがあったの?」
「覚えていないのか?」
「ええと、きみを追いかけて、何発か撃って……それから……ううぅ、頭が痛い」
「待ってて、痛み止めを持ってくるわ」
「うん……私、気絶でもしてたのかな。なんだか頭がボーッとして……」
「無理はするな。お前は……突然走り出して行ってしまって、それで……」
「……それで?」
「少し先で倒れていた。日中あれだけはしゃいだからな。恐らく、軽い日射病だろう」
「ああ……そっか……」
春が戻る
「お待たせ。はい、お水とお薬」
「ありがとう」
「……お夕飯の支度するね。あとをお願いしていい?」
「ああ、ここは俺が見ていよう」
「うん……」
春退出
「……ごめんね、せっかくの夏休みで、彼も一緒に遊びに来れたのに、こんな……」
「気にするな。アイツなんて、いてもいなくても変わらないさ」
「寂しがってたくせに……」
「なんのことか、分からんな」
「強がってるね」
「ふん」
「あはは……ああ、ごめん、なんだかすごく疲れた……少し寝るね……」
「ああ、しっかり休め」
「……眠るまで、手を握ってもらっていていいかな。なんだかすごく、なんだろう、寂しい……? 心細い……? 分からないけど、不安な気持ちがある……」
「ん」
「ありがとう……」
「こんなことなら、いくらでもしてやる」
「うん……あなたは、どこにも行かないよね……」
「当然だ。というか、それはこちらの台詞だろ。いつもお前のほうが勝手にどこかへ……」
「わたし? わたしは……どこにも行かなかった。ずっと待っていた……」
「? なにを言っているんだ?」
スヤスヤ
「……寝言か?いや……なんだ……?」
かすかな違和感を覚える
リビングに戻った喜多川を深刻な顔をした一同が出迎える
「は?」
「本格的に眠ってしまったようだ」
「ん。夕飯お先に頂いちゃったよ」
「温め直してくるね」
「ありがとう」
「これからどうする?」
「迎えは明後日の昼になるまで来ないんだよね」
「早目に来てもらうことはできないの?」
「電話も通じないから連絡する手段が……ごめんなさい」
夕飯を温めなおして戻った杏が不審げな顔をしている
「ねえ、誰か外出た? 裏口のドアが空く音がした気がしたんだけど……」
「私たちはずっとここにいたわよ」
「まさか―――」
の姿が部屋から消えている。別荘のどこを探しても見つからない。
「まさか、また……」
「……行ってみよう。真、ここを頼む。春は双葉と協力してナビゲートして。それから、もしも先にが戻ってくることがあれば教えてくれ。モルガナ、来い。夜目が利くやつがいたほうがいい」
男たちは言うまでもなく。
杏「わ、私は?」
ジョーカー「来ないのか?」
杏「行く!」
再び尖塔へ
案の定はそこでまた石を抱えて佇んでいる
「う……!」
全員の背筋を悪寒が走る
「……、なにをしているんだ?」
「ああ……やっと来てくれたんだね……」
「え?」
「ずっと待ってたんだよ。もしかしたら来てくれないかもと……遅いじゃないか。酷いよ……」
「あ、ああ……すまない……」
「……でも、来てくれた。だから、許すよ」
「? どうしたと言うんだ?」
「なにが? おかしな祐介さん」
「……さん?」
「そんなことより、ほら。やっと産まれたんですよ。ちゃんと元気に。あなたも男の子が良いって言ってましたよね」
「え」
「ああ、大きな泣き声……よしよし……」
「?」
「抱っこしてあげてください。ねぇ、お願い……」
おくるみに包まれた石を受け取る喜多川
まじまじ眺めて言う
「処女懐胎か?」
絶句する一同
「み……」
「実?」
「みんなの前でなんてことを言うんだきみは!!」
ビンタ
正気に戻る
「えっ!? ここどこ!? 部屋で寝てたはずじゃ……あれっ!? 祐介!?」
「ぐ……いいビンタだった……」ガクッ
「思いっきり入ってたな」
「顎まで捉えてた。さすが」
「アンタってほんと……デリカシーない……」
「えっ? えっ? ねえ、いったい何があったの?」
「なんていうか、ゴメンね。ほんとになんにもなかったんだね」
「いっそ殺して」
別荘に戻る
「頭が痛い……」
「俺は頬が痛いんだが。顎がガクガクする……」
「妙なことを言うからだよ」ツーン
「裏切り者はいないと分かったところで」
「次にその話でからかったら帰りの船からきみを突き落としてやる」
「はい。えーと……結局、なんだったんだ」
「……分からない。ただ、気が付いたらあそこにいて……」
微妙な空気
「まあ、でも、なにも無かったんだしさ。今日はもう寝よ寝よ! ねっ!」
一日目終了
夜更けにふっと目が覚めて部屋を出る喜多川
屋内は静まり返っている
廊下を歩いていると、バルコニーから尖塔の先が山陰の向こうに見える
階下から物音
確認に向かうとが階段を登ってくる
「こんな時間にどうしたんだ」
「それはきみも」
「俺は、なんとなく目が冴えて……」
「そっか」
「お前は?」
「喉が渇いたから、下でお水をもらったんだよ」
「まだどこか悪いところは……」
「なにもないよ。大丈夫」
「……」
「なあに?」
抱きしめる
「わっ……ど、どうしたの……」
「こちらの台詞だ。あまり不安にさせないでくれ」
「……あなたもそんなことを言うんだね」
「言わないだけで、いつもそう思ってる」
「そっか……」
「お前はいつも、すぐにどこかへ行こうとする」
「わたしはここに居るよ。ずっとね」
「……」
強い違和感を感じるが言語化できない
黙って手を取って抱きしめる
翌朝
の枕元には例のおくるみとそれに包まれた石
「な、なんで……」
手指の爪の間に土。足元には泥
「昨夜……お前は階下から上がってきたな」
「え? なんのこと……」
「おぼえていないのか? 俺とキスしたことも?」
「なにしてんだお前らァ」(#^ω^)ビキビキ
「今は抑えて」
「お、おぼえてない……」
「どうなってんの……?」
「……昨日、なにがあったの。聞かせて」
説明を受けては語る
「……夢を見ていたんだ。どこかわからない山の中の広場みたいなところにいて……雪が降っていた。寒くて寒くてたまらないのに、そこからどうしても動くことができなかった。いや、移動しちゃいけないとさえ思っていた」
足元には太く長い影が背後から覆いかぶさるように落ちている。
風はなく、常緑樹は霜と雪に覆われ、辺りには音も、生き物の気配は一切感じられない。
ひらけた木々の向こうに青い海と雪に埋もれた集落が見える。小さな港に船は一つも係留されていない。
気が付けば腕にずしりとした重みがある。
見下ろすと、白い布に包まれた赤ん坊が泣き声一つ上げずにまぶたを閉ざしている。
ああ―――この子は死んでいるんだな。
「そう思った途端に目が覚めたんだ。そしたら、あの有様で……」
「ただの夢じゃねえの?」
「これがどんな原因で起きている現象であっても、夢はそいつの精神状態が強く反映される。意識無意識に関わらず、がそういうヴィジョンを夢という形で視た以上、必ずなんらかのつながりがあるはずだ」
「であれば、その集落にがこうなったなにかしらの糸口があるというわけだな」
「よし、行ってみるか―――」
は留守番
ジョーカー、竜司、真と春、双葉、モルガナは集落へ。杏と祐介が残って見張り。
家々は春が語った通り、なにかに押しつぶされたように崩壊している。
壊れかけた駐在所で記録を見つける 黒電話が置かれている
記録は一九三三年、昭和五年の二月で途絶えている。
「ここ、見て。これ―――」
真が指差した部分に豪雪の記述。島民は全員避難したとある。
「なんだよ、島民が消えたって、避難してんじゃん。てかやっぱ雪? こんな南の島にかよ?」
「いや―――春、この島の主な漁獲物は?」
「え? ええっと、そうね、たしかイワシやカツオだったはずだけど……」
「真、もっと前の記録見せて。そこから何か月か前……ああ、やっぱり―――」
不漁によって餓死者が出ている
「なるほど、雪ね」
「あっあー、そゆこと?」
「ああ。それで島民はいなくなったんだ」
「あっ……そっか、なるほどね」
竜司とモルガナだけわかってない。
「え? なに? なんなの? ねえなに? やめてよ俺だけ仲間外れにすんのー……」
「ワガハイもわかんねえよ?」
「俺たち仲間だよな」
「いやぁ、ワガハイがわかんないのとリュージがわかんないのは同じじゃないと思うが……」
「竜司くんそこに座れ。地理の授業するから」
「いやぁ!」
この島近辺は黒潮の真上に位置している このため古くから島は潮の流れに乗って北上してきた魚の群れを目当てとした漁師たちの立ち寄り所として利用され、江戸期から昭和に入るまで細々と発展してきた
黒潮は日本近海を流れる暖流で、その影響からこの島の気温は常に温暖で安定している
しかし黒潮は数年から十数年スパンで大きく蛇行する性質を有している
この蛇行、黒潮異変(黒潮大蛇行)が起こると海底付近に留まっている冷水塊が海面まで上昇、冷水域が拡大し、局地的な気候変動が発生。集落は大雪に見舞われる
昭和のはじめ頃の豪雪の記録はこれによるものと思われる。記録的な降雪量に島民は島外への避難を余儀なくされた。さらにこの気候変動は以後十年近く続き、早い者は避難からひと月で集落を諦め本土へ移住。村は断絶する。
「おそらくこれが島民の消失現象の正体でしょうね。人の口を介するうち、忽然といなくなったという形に歪められていったんだわ」
「都市伝説ってそういうものだわな」
「……俺の記憶が正しければ今まさにこの島は―――いや、今は関係ないか……? とにかく問題は、これらとの状態は繋がるのかってことだ。結局家が圧し潰されているのはただの自然現象だろ」
うーん
「はさぁ、あの山の上の塔にシューチャクしてたくさくね?」
「夢でもそれっぽいもののそばにいる感じだったな」
「あの尖塔ってなんなの?」
「……生贄が捧げられていたって話はしたよね? 昔、本当に昔、……亡くなられた女の人たちを慰めるために建てられたものだって聞いてるわ。別荘を建てる時に取り壊す話も出たそうだけど、あそこまで重機を入れるのも手間がかかるし、建てられた経緯を考えたらそのままでということで放置されているの」
「……行ってみようか。なにか解ることがあるかもしれない」
「えっ……」とても嫌そうな真
正直言ってちょっとワクワクしているジョーカーとそれを否定できない双葉
察してる竜司と春、モルガナ。真はビビっている。
視点変わって留守番組
三人で部屋でポーカー
「はいフルハウス」
「ぎゃあっ」
「甘いな、ストレートフラッシュだ」
「はああっ!?」
「杏は……ブタだね」
「ハイカードって言ってよ! もー! アンタたちとポーカーしてもつまんない!」
「賭けるものもないしな」
「おしまいにしよっか」
「はーもう、ヒマだよ~……」
「……ごめんね杏。祐介も。私のせいで……」
「あっ! 違うよ! そーいう意味で言ったんじゃないって!」
「でも」
「原因があるとして、それはお前ではないんだ。思い違えるな」
「……うん。ありがと」
「でもさ、ホントになんなんだろう」
「そうだな……論理的に考えれば夢遊病と言いたいところではあるが」
「そんなんあり得るの? 外に出て、山登って、石抱えて戻ってくる、なんてさ」
「全く無い、とは言い切れないかな。ただ今までそういった経験が無いのに、ここに来て急に、というのは。二重人格みたいな精神疾患も考えたけど、私自身にはそういった兆候に思い当たるところがないんだ」
「そうだな。俺にもない。杏はどうだ?」
「に変わったところ、ってこと? ここに来る以前に……思い当たらないなぁ」
「だよね。カウンセリングには今も通ってるけど、むしろ快方に向かってるってお墨付きなくらいだ」
「久しく聞かなかった良い報せだな」
「うんうん」
飲み物が尽きる
「あ、淹れてくる―――」
「いや、俺が行こう」
「でも」
「……こういう時くらいは俺にやらせてくれ。マスターには及ばないが、うまいコーヒーの淹れ方くらいは心得ている」
「言うじゃん。じゃ、よろしく」
「……わかった、お願い」
「任せろ」
残された二人でバルコニーから海を眺める 風が夏にしては少し冷たい
「……海が昨日より青い気がする。早く終わらせてさ、また泳ご? 今なら澄んでそうだし」
「ふふ、杏、逆だよ」
「え?」
「逆なんだよ。海がああいう風に明るい青になっているときは、却って海水が濁っていることの証拠なんだ」
「へえ……そうなの? なんで?」
「海中の塵やプランクトンが太陽光を乱反射させてああいう明るい青色をつくるんだよ。水深なんかも色々関係してくるけど、あの辺りならそういう理由じゃないかな」
「じゃ、澄んでるときはどういう色になんの?」
「深くて、黒に近い青になる。ほら、黒潮ってあるでしょ? あれはプランクトンの含有量が少なくて澄んでいるから、遠くから見ると海に黒い帯が引かれているようにも見えるんだ。だから黒潮って呼ばれてる」
「うーん、豆知識」
「海知識かな」
「役に立つ?」
「全然。あ、でも―――出発前に気象庁の発表を調べてたんだけど」
「なんで?」
「海が荒れたらいやだなぁって」
「なるほど?」
「とにかくね、本当ならその黒潮がこのすぐ近くを流れているんだけど、今は黒潮大蛇行って現象が発生していて、大きく南に逸れてるんだって」
「あー、だから濁ってるんだね。ふうん……あれ、でも黒潮って暖流でしょ? それが遠ざかったら寒くなるんじゃない?」
「そういうこと。だから風が冷たいのかもね」
「中戻ろっか」
「そうだね―――私が春の話に『雪じゃないかって』言ったのおぼえてる?」
「ん? うん」
「あれもそういう理由だよ。蛇行と豪雪、この因果関係はまだ明確にされたわけではないけど、蛇行期間中とその後は降雪が増えるっていう統計が出ている」
「じゃあ、家が潰れてたのは雪のせい?」
「たぶんね。それがこの島が無人になった理由じゃないかな」
「でも―――それなら、一人だけあの塔のところで亡くなってたって女性はどうして」
「待ってたんだよ」
「え?」
「あの人が帰ってくるのを待ちわびていたんだ」
「?」
「少しでも早く、あの人にあの子の顔をお見せしたかったんだ。病んだ身で子など産めぬと皆言ったけど、わたしはちゃんと―――でもいつまで経ってもあの人は帰ってこなかった。きっと雪が降ってるから―――船が出せずに―――だからわたし―――」
喜多川が戻ってくる
「ゆっ、祐介、が、なんかヘンなの!」
「なに―――」
「……わたし……行かなきゃ……」
「どこへ行くというんだ。おい、」
「邪魔しないで。荒神さまがそこまで来てる。急がなきゃ、またあの子が死んでしまう―――」
尖塔から帰還するジョーカーたち
「ただの慰霊碑かぁ……その荒神とかいうのが祀られてたりするのかなと思ったんだけど」
「それはべつに社がどっかにあるんじゃないのか?」
「ううん。荒神さまのお社は反対側の瀬の……昔港があった辺りにあるはずだよ」
「海の底で眠っているんだものね。それなら海の近くにあるのが普通だわ」
「あー、そっち寄ってきゃよかったな」
「ここまで来たらしょうがねぇよ。一旦アン殿たちと合流して情報の整理しようぜ」
別荘に戻るとその広間は荒れ、高巻が喜多川の手当をしている
「あっ! みんな……!」
「どうしたんだ、杏!」
「うっ、うぐっ……わああん、がぁ……!」
安堵か恐怖かによって泣き出してしまう
代わりに喜多川が説明する
「突然、人が変わったように豹変してな。どこかへ行かなければと訴えて……阻止しようとしたが、この有様だ。まさかにあれほどの膂力があるとは」
羽交い締めにしようとしたところ、腕を掴まれて片手で壁に叩きつけられたと語る
「いやいや、いくらなんでも、お前六十キロはあんだろさすがに」
「ああ」
「片手って俺でも無理だって」
「どれどれ……あっ、おもぉい」
「おい離れろ暑苦しい」
「遊んでる場合じゃないでしょ。はどこに行ったの?」
「おそらく、ワガハイたちと入れ違いになったんだろうな。他に見当もない」
「そだな……行ってみよう!」
いない
「ここまで来たのに空振りかよ!」
「どうどう。落ち着いて考えよう。―――祐介、おすわり」
「犬のように扱うな」
「そういう口は冷静さを取り返してからきけ。お前の審美眼は必要だ」
「……わかった。努めよう……」
「よしよし。さて、楽しいたのしい推理のお時間だ、皆―――」
はどこかへ行かなければと訴えていた。それはどこか。
「それが分かれば苦労しねぇよ」
「じゃあ視点を変えよう。どこかへ行くのだとして、なんのために?」
「―――はコウジン様がすぐそこまで来ている、と言っていたな」
「あ、えっと、あーなんだっけ、誰かがまた死んじゃうみたいなことも言ってたよね?」
「あの子、と」
祐介に補足されながら杏がとの会話を皆に伝える
「なるほど。コウジン様……つまり荒神だな。春が教えてくれたこの島の土着宗教の神だ」
「海の底で眠っているって神さまだね」
「実のところ、これに関しては正体が見えてる」
「わかんないやつー挙手しろー」
おイナリだけ
「えっウソ! 杏おまえわかんの!?」
「馬鹿な……! どういうことだ!?」
「オマエらアン殿をなんだと思ってんだ」
「ほんとよ。後でおぼえてなさいよ。……まあ、実際にはが教えてくれたようなもんだけどさ……」
「じゃあ高巻先生、そこの察しが悪い子に教えてやって」
「お願いします」
「すごい素直……だからね、黒潮が関係してんの。黒潮は不定期に大きく流れが変わるらしいんだけど、そうなると、海水の温度が下がって、この辺りにも雪が降るくらい冬は寒くなるんだって」
「なるほど、凍りついたかのように静止するとは、文字通り凍りつくような気候を指しているんだな」
「そうそう、それそれ」
「ああ……概ね把握できたと思う。潮の流れの変化によってもたらされる種々の異変に人格を与えたものが荒神と呼ばれるに至ったんだな」
「そういうことね。現実には神なんかじゃなく、黒潮大蛇行って呼ばれる自然現象でしかないわ」
その黒潮大蛇行が発生していると出発前に気象庁の発表を確認したばかりだとジョーカーは語る。
「お前なんでそんなん調べてんの?」
「趣味」
「あっそ」
「も同じこと言ってた。だから風が冷たいのかもって……」
「ほらな」
何故かドヤるジョーカーとスルーしたい竜司
「先から気になっていたんだがなぜお前はそんなに嬉しそうなんだ」
「なに言ってんだ。こんなシチュエーション滅多にないぞ、ふ、ふ、ふ―――」
「お前ほんとのことなんだと思ってんだよ……」
「大事な仲間の一人だよ」
だから、と言って少年は仲間たちをふり返り、器用に片目をつむってみせた。
「助けに行こう。俺の推理が正解なら、の居場所は分からなくても、あいつの『心』の在り処は予測できる」
ジョーカーは手にしたスマホを自慢げにかざしている
以下ジョーカーの独白として記述
黒潮大蛇行の発生と様子のおかしいの発言を総合すると、一つ面白い予測が立てられる。
そう、以前にもこんなことがあったよな。忘れられるはずもない。と彼女の母親の中にあったもの―――
二つの『心』が折り重なり、一つのパレスとして現れていた去年の今ごろのことだ―――
他人行儀で頑なで、いかにもごく普通の女子高生ですみたいな顔をしていたころのあいつは、ほんとうにつまらないやつだった。
今の状況はそんなあいつの内にあったあの『楽園』とよく似ている。
つまり、どこかの誰かがあいつの口を、肉体を、心を支配して意にそぐわないことを行わせているんだ。
そうだろ。あいつがなにも言わずに消えることはあっても、なにかを言って消えるなんておかしいじゃないか。が正気なら『俺には』その行方を追うことは容易じゃない。今『俺が』こうして推測を立てられている時点で、それはの仕業じゃないってことになるんだよ。
さて、それじゃあ誰が―――というのは実のところどうでもいい。が、ということさえ解れば俺たちはもうそこへ侵入する手立てを持っていることになる。
なぜならとその誰かさんは今、『心』が折り重なった状態にある。
つまり―――
独白終了。
全員の姿は集落の半壊した駐在所にある。
「憑・り・つ・か・れ・て・る~?」
怪訝そうな顔の高巻。頭を抱えている新島。二人の足元で黒電話のコードを引っ張っている双葉と竜司。祐介と春は島民の住所録を確認している。
「簡単には信じられそうもないけど……でも、そうと表現できる違和感はいくつもあったね」
「だろ? もし本当にそうなら、の心の中へ入ることができるんじゃないかって」
「ふむ……本来ワガハイたちペルソナ使いにパレスは存在しないが……に憑りついてるヤツの心が重なって支配している―――つまり、同じ場所で上位に立っているのであれば、の座標でソイツの心に入り込めるかもしれんな」
「問題は―――そのゆーれいだかなんだかわからんやつにパレスがあるかどうかだけど……」
「そこは試すしかねぇわな」
イカメシにはナビゲーション機能が入っていないので、相手の番号を入手して一度かけてみるまでパレスの有無は分らない。イカメシ経由で電話をかけた場合、対象のパレスが存在する物質的な距離が近く、また本当にパレスが存在していれば例の音響が発生=パレスに侵入する。パレスが存在しない場合は普通に電話が繋がる。パレスが存在して距離が遠い場合はガイダンス『おかけになった番号へお繋ぎできません』になる。
「てかそもそもさ、なんでだったんだろ。切欠は例のおくるみだとしても、拾ったのは祐介なんでしょ?」
「野郎だからじゃねえの?」
「だとしても拾った場所の近くは私たちも一度は通っているのよね。そんな物が落ちているだなんて気が付きもしなかったわ」
「―――これは仮説だけど、以前、の心にパレスがあったとき、あいつのパレスは母親のものと重なるようにして存在していた。一つのパレスのほとんどを二人の人間が共有していたよな。一度そうなったことで、また同じ状況になりやすくなってる……あるいは、っていう人間の精神構造がそもそも他者と心を重ねやすいんじゃないか?」
「共感力、あるいは感応力の高さが仇になってるってことか」
「つまり……いわゆる霊媒体質ってやつだな」
「なにそれ?」
「憑りつかれやすいってこと」
の番号をイカメシに入力
例の音響
意識が揺らぐ直前、嬉しそうにガッツポーズするジョーカー
「だからなぜお前はそう嬉しそうなんだ」
「もうほっとこ」
パレスへ
雪の降りしきる月見島の港 船は無い 海鳥がどこかで鳴いている 漁小屋が建ち並ぶ
雪にはしゃぐジョーカー
「雪だーっ!」
「犬かよ」
「ワンワン!」
「ねえおっきな黒犬さん、その調子であの子のニオイを嗅ぎ取れたりしない?」
「くんくん……」
「いやさすがに無理っしょ」
「……あっ、あいつのにおいする」
「へ、変態……!?」
「どういうことだ……どういうことだ!?」
「いや、あいついい匂いするだろ。なんか甘い……でもくどくない、爽やかで軽さのある……」
「ああ、香水ね。びっくりした。いやそれでも若干キモいけど……」
「―――そこまで記憶してくれていることを光栄に思うべきか、気持ち悪がるべきか―――」
「気持ち悪がっていいんだって。……って今の声!」
「ここだよ」
五歳くらいの大きさのブレイド
クイーン「うわっ! かわいい!」
スカル「ちっさ! なにそれちっさ!」
モナ「ワガハイとそんなかわらんじゃないか」
ナビ「あでも口元に面影あるな。わかる」
ジョーカー「おっ、俺の娘……!?」
フォックス「誰がだ! こいつは俺の……娘じゃないな……」
パンサー「うちの子にする!」
ノワール「ブレイド、抱っこしていいかな?」
「誰の娘でもないし落ち着いて欲しい」
「はい。でもなんで小さいの? ていうかなんでここにいんの?」
「乗っ取られたとはいえ全部じゃないってことか」
「たぶんそういうことだね」
「戦えるの?」
「……残念ながら。何度か試したけど、ペルソナも呼べないし、武器は大きくて振り回せない。それにたぶん、ここにいる私は本人じゃない。『私』自身が認識する『私』……シャドウのようなものと思ってもらえれば」
「ふーむ……十歳くらいか?」ナデナデ
「頭を撫でるのをやめて」
「ここで待ってる?」
「いや、彼女と深く繋がっているからか、居場所が分かるんだ。道案内くらいはさせて」
「彼女って?」
歩きながら説明
家々が雪に圧壊する前の集落の様子とともに見知らぬ女性のシャドウの過去の姿が幾度も現れる。
真知という名前の女性。生まれつき病弱で、二十歳までは生きられないだろうと目されていた。
彼女が十七のころ、いよいよ身体も弱り、やせ細ってきていたが、その病的な容姿は一種美しく、集落の男たちの関心を集めた。男たちは競って彼女の気を引こうとしたが、その裏はどうせ死ぬ身で後腐れないという打算があった。当然真知は心を開かない。
しかしあるとき外からやってきた一人の漁師が海を眺める彼女に惚れ、事情を知らぬまま情熱的に訴えかける。
氷のように頑なだった心がほどけ、真知はその漁師の子を身籠った。
日に日に大きくなる腹に、女も漁師も喜んだが―――
島の男たちはよそ者が真知を口説き落としたことが面白くない。漁師に向かって囁きかけた。
『あの女は病気ですぐ死ぬ』
漁師ははじめこれを信じなかったが、黒潮異変によって島の気温が下がり、不漁が続き始めると島へ立ち寄る頻度が落ちる。
それでも寄れば顔を見せていたが、いよいよ臨月も近づいたころ、真知は体調を崩して病床に伏せてしまう。
それでも真知は執念すら滲ませて男に訴える。
『必ず元気な子を産むから』
だからどこにも行かないでくれ、と。
その鬼気迫る様に男は腰が引けてしまう。病によって痩せこけた彼女に出会った頃の美しさは失われ、男の情熱はすっかり失せてしまっていた。
男が逃げるように島を出るのと入れ替わりに雪が降り始める。
避難する島民たちの中には真知にも島を出るよう勧める者もいたが、真知はここを離れてはあの人を待てないと頑なにこれを拒絶する。
やがて島には真知だけが取り残され、彼女は独りで子を産み落とした。
しかしもはや家は大雪にきしみ、火をおこす燃料もない。子は弱々しく泣くばかりで、弱った真知の身から乳はほとんど出なかった。
死にかけの母子は父親の姿を探して港へ向かう。船のほとんどは本土へ避難する際使用されて戻らない。
真知は踵を返して山へ向かった。尖塔のある方へ。
あそこならこのあたりの海が一望できる。やってくる船があればすぐにわかる。
やっとのことでたどり着いた先で海を見下ろす。
(が見た夢の描写の反復)
足元には太く長い影が背後から覆いかぶさるように落ちている。
風はなく、常緑樹は霜と雪に覆われ、辺りには音も、生き物の気配は一切感じられない。
ひらけた木々の向こうに青い海と雪に埋もれた集落が見える。小さな港に船は一つも係留されていない。
腕にずしりとした重みがある。
見下ろすと、白い布に包まれた赤ん坊が泣き声一つ上げずにまぶたを閉ざしている。
ああ―――この子はもう―――
(ここまで)
己の魂と死肉と引き換えに、我が子をひと目あの人にお見せしたいと願いながら真知は息絶える。
ジョーカーたちドン引き。
「こっわ……田舎こわぁ……」
「風評被害! 俺のとこはそんなんないから!」
「まあオマエんとこはそもそも若いオンナもあんまりいねーよな」
「てか相手の男はどーしたのよ! なに逃げてんのざっけんな!!」
「全くだ。責任も取れんくせに手を出すなどと、男の風上にもおけん」
「村の男のひとたちもあんまりだわ。まるで彼女をなにかの景品みたいに……」
「そういう時代ったって、ムカつくもんはムカつくなー」
「せめて島を出られていれば、赤ちゃんだけでも……」
「これを延々夢としても見せられていたわけだけど。たぶん眠ってる本体は今も見てる」
「うっ……、すぐに助けてやるからな……」
ミニを抱っこするジョーカー
「ありがとう。気色悪いから下ろして」
「反抗期早くない?」降ろす
「それで、その本体はどこに?」
「ここ。このパレスの中だよ」
「取り込まれてる、みたいな?」
「えなに、俺らいまの心に重なったユーレイの心の中にあるの心の上に乗っかったユーレイの……?」
「無限ループってこわくね?」
「あんまり長居するとやばいかもな」
「多分ね。私の本体も……あ」
「え? きゃあっ!?」
の足がない
「落ち着いて、クイーン。これは単に本体に近づいたからだよ」
「そそれならむしろ普通あなたは力を増したりするもものなんじゃあ……」
「ダメだ世紀末先輩ビビって使い物にならねぇ」
「ふんっ!」
クイーンの突きがスカルの脇腹にめり込む
「いつも通りで安心するよ。いいかな。私の本体に近づいてるってことは―――」
「やっこさんの本体にも近づいてるってことか」
「そういうことだね」
「……」
「……待ってるから、早く来てね。できれば、白馬に乗って」
「承知した。馬は用意できないが、必ず」
「うん……」
沈黙 はその場にいる
「……このタイミングで消えると思ったんだけどなぁ……」
「俺もそう思ったよ。馬を用立てる猶予は充分ありそうだな」
「いらない。さっさと来て」
「相分かった」
微妙な空気のまま進むと、はいつの間にか消えている
「やっぱり抱っこさせてもらえばよかったかしら」
「ほっぺたやわらかかったねー」
「抱っこしてるとこう、俺の母性本能がさ」
「おまえに母性なんぞあるわけねーだろ」
「父性も怪しいわ。面白がってるだけだろジョーカーはよ」
「まあ言いたいことはわかるわ。小さい子ってやっぱり可愛いものよね」
「ああ、アグリコラクチサケヤモリのような愛らしさが」
「オマエら、真面目にやってやれよ……」
一同の前に唯一雪に潰されていない小さな家が現れる
歪んで動かない戸をどうにか開くと、内部は外観より広く、悪臭に満ちている。
「くっさ! ンだよこれ!」
「うむ、吐きそう……うっぷ」
無言のジョーカーとモナが鼻を押さえて悶絶している横で、女性陣は微妙な顔をしている。臭いに心当たりがある様子。
「これ、アレだよね」
「まあ……そうね、たぶんね……」
経血の臭い。特に明記はしないこと。
内部描写 破れた障子と襖、押入れと引き戸が一つ。傷んだ家具にはいずれも赤い染みが付着している。土間には錆びた鉄鍋や調理道具。桶の中の水は腐っている。
「くせーよぉ鼻がひん曲がりそう……」
「スカルはまだいいよ。俺にゃんか、はにゃがもげそうらし、もにゃは死にそう」
ビクンビクンしているモナ
「モナも使いものになりそうもないな……ナビ、道はわかるか」
「んーとね、そこのふすまのむこう。奥に続いてる」
「奥? つっても、この建物の見た目的に外に出ちゃうんじゃ―――」
パンサーの手が襖を開けると、その向こうはねじれた通路が続いている。床を歩いていたはずがいつの間にか天井や壁を歩いている。それに気がつくと床に転げ落ちる。
「なんじゃこりゃ。どーなってんだよオイ!」
「歪んでる……」
「文字通りな。それだけ彼女の心は歪みきっているということか」
「が心配だわ。急ぎましょう」
道中にシャドウの姿はない。
「たぶん……マチにはほとんどのニンゲンが疎ましいんだろう。誰も、自身の心のままに操れるはずのシャドウですらも……」
「そりゃ、あんなことがあれば……わかんなくはないかな……」
「だが、それならばなぜは連れ去られたんだ。あいつが憑かれやすい性質なのだとしても、憑依はあくまでも手段のはずだろう。その目的はなんなんだ?」
「……復讐?」
「誰に?」
「自分と赤ちゃんを捨てた男のヒトとか」
「あー……え? のコト操ってそいつになんかしようっての?」
「つって生きてんの? 生きててももうジジイじゃねえの?」
会話を耳にしながら真は考え込んでいる。
ジョーカーが意見を求めて視線を送るが、彼女は首を左右に振るだけ。確信がない。
「とにかく奥へ進みましょう。私たちの目的はの救出よ」
パレスは古びた木造建築の平屋 基本的には一本道
左右に延々色褪せた襖が続いているが、開けてもその向こう側には暗闇が続くだけ。耳を澄ますとかすかに地鳴りのような音が聞こえる。波の音。真知にとっての屋外への認知は聴覚情報のみでほとんど目に入っていなかったことの暗喩。具体的にする必要は無し
襖の上張りには色褪せているが男との思い出らしき場面が描かれている。しかしある程度進んだところからちらほら男の顔が黒く塗り潰されているものが出はじめる
憎いと思いつつまだ雪のせいで戻れなかったと縋りたい心地。怒りや悲しみ、相反する感情の表れ
ジョーカー「フォックスはどう見る?」
上記返答
「まだ未練たらたらってことか」
「言い方」
いくつかの角を曲がった先で行き止まり
襖のどれかが正解だった?
戻って確かめんの!? どんだけあったよ!
ナビにもわからない。
役立たず!
じゃあおまえがナビしろ!
無理! ごめん!
騒ぐ傍ら、フォックスの尾が引っ張られる。小さくあとけない気配を感じる。
「こっちだ」少し戻ったところの襖を開けると下に降りる階段
「なんで分かったの?」
「俺も憑かれやすいのかもな」
「は?」
全員が階段を降りていく。背後で閉ざされた襖の、ほとんど剥げかけた上張りに赤ん坊を抱く真知の姿がある。
最奥は入り口とまったく同じ構造の部屋
が一人で汚れた布団の上に横たわっている
「! 良かった無事だったんだ!」
駆け寄ろうとする杏をジョーカーが押し留める。
「えっなに」
「見て」
袖をめくるとすごい鳥肌
「えっ、なに?」
「あれはじゃない。杏にはどう見えてる」
杏には顔色の悪いの姿が映っている。
ジョーカーは青褪めて首を振る。無言。
モナの尻尾が膨らんでいる。フォックスも。
「あちゃあ、間に合わなかったか」
「えっえっ? なになんなの!?」
「ほとんど乗っ取られてる―――攻撃くるよ! 構えて!」
起き上がったがペルソナで攻撃してくる 回避と防御からの反撃
「やりづらいわっ! 見た目完全じゃん!」
「そうかわかった。ジョーカーやモナの認知をみんなにも反映しとくな」
痩せこけた血塗れの女。粗末な大袖が羊水で赤く染まって斑模様になっている。
「ひえっ」
腰が抜けるクイーン
「ダメだ覇者パイセン使えねぇ! 足止めしとくからなんか手ぇ考えて頼むわ!」
「ししかたないでしょ!? なにか、なにか手を考え……お姉ちゃん助けてぇ……」
「ナビ、状況」
「うーん……くっついてる」
「なるほど」
「今のでわかんのかよっ!?」
「いや全然」
「んもう。結局はだし、脳筋は脳筋なんだってぇ」
「あーはん?」
「足元から攻めて転ばせろ! やつの弱点は目だ!」
「どっちよ」
「顔はさすがに気が引けるなぁ」
「では足で」
足の早いモナとフォックスで牽制 上下段からの打ち込みに剣筋が揺れる 今さらの剣術がドイツ式という説明 主導権の話
モナはいわゆる山賊式 フォックスは後の先
数の有利はモナたちにあるが、どうしても二人は全力を出し切れない
「手を貸そうか?」後ろでジョーカーが笑っている
「やめろ! どうせごとふっ飛ばすつもりだろ!」
「すっこんでろ! いや、補助だけしていろ!」
「ひどぅい」
不満げにしつつも思案する
「は状態異常に強いのよね。敵になると厄介なタイプとは思っていたけど」
「思ってたんだ」
「綿密なシュミレーションは戦術の基本よ」
「予想外のことを仕出かすのもの仕事だ」
「あなたもでしょ」
「えへへ」
「褒めてないから」
「ひどぅい」
「さっさと仕掛けて」
「アイマム」
前線に混ざるジョーカー 脚を狙ったダウンショット
ぐらついた隙を突いてパンサーの鞭がを縛り上げる
「つっかまーえたッ! ほぉら、ワンと鳴くのよ!」
「見た目がやべぇ」
「発言もね」
「あ、アン殿ぉ……」
はしばらくもがいているが、やがて動かなくなる
「正気に戻った?」
「いや、まだ剥がれてない。でも今なら、の意識が表層に上がってくることもできるはず。そしたらこのパレスも崩壊するから……」
の心を基底としてパレスは構成されている
真知はあくまでも間借り。ペルソナ使いにパレスがない以上、が真知の支配下から逃れ出ればパレスは存在できなくなるという理屈
「とにかく起こせばいいのか?」
揺さぶってみたりつついてみたり引っ張ったり
「キスしたら呪いが解けるやつ」
「任せろ」
何故か立ち上がるジョーカーを座らせる女子一同
「祐介! パパッとやっちゃって!」
「やりづらいな!」
「手拍子とコールいる?」
「いらん!」
なお効果はない
「俺が恥ずかしいだけじゃないか! 起きてくれ!」
「仕方がありません。私にお任せあれ!」
ノワールのビンタ いい音
目をむく一同 沈黙 シーン……
「いっ、たぁ……!」
「よ、よくやったノワール!」
「家電製品かよ」
「ここは、そうか、みんな助けに……うっ、臭いし、あちこち痛いし、なんで縛られてるの」
かくかくしかじか
「……駄目だ、思い出せない。とにかく、私が目覚めた以上、ここは崩壊するんだよね」
「うん。だからそろそろここを出よう」
「歩けるか」
「平気。いけるよ」
「手くらいは出させてくれ。馬は結局用意できなかったからな」
「なにそれ?」
シャドウの発言までは本体は記憶していない
パレス全体が鳴動しはじめる
階段を駆け上がり、廊下をモルガナカーで疾走する
屋外に出ると外は吹雪
「うわあ冷てえ!」
スリップするモナ 転倒、変身解除
「みんな、無事か―――」
目を回しながらも問いかけるジョーカーの目に、降り頻る雪の向こうの巨大な影が映る
太く長い影が覆いかぶさるように全員の上に落ちている
聴き取れない言語で影がうそぶく
「ブレイド中ボス説あるぞこれ」
「せめて四天王の一人くらいになりたかった」
「おお、ブレイドがこの手の話に乗んの珍しいな……ってそんな場合かっ! なんだありゃあ!!」
「噂の荒神さまとやらか」
「ま、待ってよ、あれって結局自然現象なんでしょ?」
「このパレスの主の認知上ではそうじゃないんでしょうね」
「大きいね。ジョーカー、どうしようか?」
ふむ、とジョーカーは唸ってナビに目を向ける
「脱出地点までモナで行くのはキツいかもな。この雪だ。すぐにまた転ぶぞ」
「スマン。雪上走行はちょっと……」
「となれば」
ジョーカーは短剣を構える
「下がりながら戦おう。ブレイド、やれるか?」
「なんとかってところかな。万全は期待しないで」
「じゃ、スカルと退路の確保を」
「了解」
パンサー、フォックス、クイーンを前へ、スカルとブレイドが退路確保 モナとノワールは遊撃及び補助
二回戦目
スカルとブレイドが建物や自然物ごと雪を吹き飛ばしながら退路確保する描写を中心にボスの全身描写 なるべくくどく
巨大な黒蛇 口から冷気を吐き出す
「ニャーッ肉球が凍っちまう!」
「モナちゃん、私の肩に―――」
「ずるい!」
「ジョーカー! 前だけ見る!」
状態異常は基本無効 炎上、氷結、感電含む
ボスらしくこれといった弱点は無し
じりじり下がりながら脱出地点近くまで来るものの全員満身創痍
「コレやばいって、あいつそもそも攻撃通ってんの……!?」
「効いてはいるよ、いるけど……くそぉ、認知ってほんと厄介だな!」
「真知さんにとってはその命と肉を捧げた神だものね。自然現象ってことも解ってはいないだろうし……」
「神サマが倒れるわけないってことか。意外と斃せたりするけど」
「ありゃ結局ニセモンだっただろが。コイツがマチにとってホンモノってのが今は問題なんだっつうの」
「解ってる。お小言はやめて」
「うふふ、そうだね。あの神さまはこの島の人たちに信仰されていたんだもん―――」
ノワールの目に港の片隅に置かれた小さな社が映る
「あれっ!」
ノワールは信仰の礎を破壊することで真知の認知を揺らがせられないかと社の破壊を提案する
「不謹慎……じゃねぇな。なんてーの、こういうの?」
「不信心とか不心得者とか……まあいいんじゃないの。現実に影響はないんだし」
「そういうことなら、俺に任せておけ」
はりきるジョーカー
少年はいかにも楽しげに手をすり合わせ、踵とつま先を打ち鳴らした。仮面の下の目を細めて口角をつり上げる様はさながら悪魔か殺人狂のピエロだ。
いつものこととはいえ、仲間たちはこれにため息をつく。
そんな彼につい先ほど膝を撃ち抜かれたばかりのブレイドが代表として漏らす。
「なんで楽しそうなの」
「こいつはお前の様子が変になってからずっとこうだ」
答える気もなさそうなジョーカーに代わり、フォックスが教えてやる。
もちろん皆、彼の『大切な仲間』という発言に嘘偽りの無いことは承知している。その上で彼が皆をちょっと穴を空けた程度ではぐらつきもしないと信頼していることも。
―――その信頼、重すぎ。とは誰もが思っていたが、一方でいい気分にもさせてくれることも確かだ。
「フハハハ! みんな、ちょっとガードと足止め頼む」
高笑いとともにそう言われて気安く返事をしてしまう程度には、この≪切り札≫からなにかを任されるというのは心地よいことだった。
「一発で決めてよ、マジで!」
様子が変わった怪盗団に荒神も攻撃を激しくする
コンセントレイト+メギドラオン 社一帯は吹き飛ばされる
「やったか!?」
「おイナリこらー! フラグたてんな!」
「……やったか?」
「言い方変えてもだめ!」
やった。
荒神はボロボロと崩れ落ちながら海に落ちていく
これでやっと帰れると安堵して戻ろうとするのもつかの間 が突然すっ転ぶ
ふり返ると彼女の脚に無数の蛇が絡みついている
「!」
掴もうと手を伸ばすが、引きずられていってしまう 台詞を持たせないために昏倒
その先に真知が佇んでいる
「ま、真知さん……もうやめて……」
「その子を返してくれ」
『ダメ―――私には肉の躰が必要なの―――』
逃げ道を塞ぎ、囲むようにこれまで姿を見せなかったシャドウが現れる ミニ荒神 黒い蛇の群れ
「復讐のため? それならその子の肉体を利用する必要はないはずでしょう」
『復讐? なにを言っているの?』
真知の目的は妊娠である。もう一度子を孕めば男が戻ってくる、以前の優しく情熱的な様子に戻ると思い込んでいる 荒神に願ったのも同様のことだった
気絶したを抱え、血にまみれた手で愛おしげにその腹を撫でる
『小さいけど、若くて健康な躰……私はこれを使ってもう一度あの人と子を持つの。そうしたら、そうしたらきっと―――』
ブチッという音 やっべーって顔の一同
「あっあー……あのさ、オネーさん。悪ぃんだけど、その身体の持ち主ってさ……」
「カレシいるんだよね。本人自覚ないけど割と束縛するタイプの」
パキッとなにかが割れるような音がした。それはあたかも冬の日、凍り付いた水たまりを踏んだような音によく似ている。
音はその一度きりではなかった。パキパキと断続的に、鳴る度に間隔を狭め、ついには耳にうるさいほどの重奏となって場を支配する―――
その頃には全員がこれを目撃していた。
若者たちの最前に控えた一人の少年を中心に、足元から、あるいは中空に、冷ややかなものを感じている。
雪よりもなお冷ややかな、しかし激しい怒り。
あまねく衆生に静寂と死を与える冷感は、その少年から放たれ、仲間たちを通り過ぎては取り囲む影たちの身を足元から凍りつかせていた。
「誰が―――誰の身体を使って―――誰と―――子を成すと―――?」
その背後には彼の心を表すかのように猛り狂った偉丈夫が大刀を手に立ち上がっている。
「あらあら、まあまあ……」
「ちょっとフォックス! やり過ぎ―――」
「喧しいッ! もはや容赦も手心も必要とは思えん! 彼女は―――」
バキッとひときわ大きな音が鳴り響いて、少年たちを取り囲んでいた影たちに一斉にひびが入った。振り回された偉丈夫の刃が、凍り付いたそれらのことごとくを打ち砕いたのだ。
「は俺の―――!!」
悲鳴は無く、ただ砕け散る残響だけを残してシャドウらはかき消えた。
「俺の! ……その、……だから……」
「最後まで言い切れよぉ……」
「カッコつかねぇな」
「祐介らしいっちゃらしい、のかな」
「それもかわいげってことだね。うふふ」
「とにかく、だ」
ジョーカーが構えから即座に発砲 呆気にとられていた真知の胸を撃ち抜く
仰け反った隙を突いて回収 満足げなフォックス
嘆く真知にジョーカーは邪悪な笑みを浮かべて銃を突きつけたまま歩み寄る
「まずは誠意を見せてもらおう―――」
真知にではない
翌日の昼
帰り支度をする一同
「なんか結局、いつも通りの休みだったね」
「うう、ごめん」
「は気にしなくていいのよ。そもそも突き詰めたら男連中が馬鹿なことをしようとしたことが現況なんだから」
「あれ俺らかんけーねーし! リーダーが言い出して俺らはどっちかってぇと止めようとしてたし!」
「でもちょっと言い負かされそうになってたよね? モナちゃんまで……」
「うぐっ……い、いやだって、ワガハイは猫だしぃ……?」
「モルガナ、一人だけ逃げ果せようとは思ってないだろうな」
「つかこんな時だけ猫ぶるな!」
「モナ、このことそうじろうにバッチリ報告してやるからな」
「やめてくれ!」
ところでジョーカーは?
一人で港の社に来ているジョーカー
周りを防風の松の木に囲まれた小さな社。当然壊れたりはしていないが、長年誰も手入れせず潮風にさらされ続けたからか、手を触れるだけで社の戸は崩れ落ちる。
中に例のおくるみ。
取り上げると、その下からべっ甲の髪飾り
「報酬のつもりか?」
ふり返ると痩せた女が眠る赤ん坊を抱えて立っている。彼女は頷く。
「いいだろう―――」
どちらも取り上げて、ジョーカーは歩き出す。
その後ろを、かすかな足音がずっとついていく。
帰りの船
みんな疲れて寝てる中は起きてる
デッキから海を眺めてボーッとしていると寒気を感じる
「鳥肌が……なんで……?」
「気にしないほうがいいぞ」
「うわ、祐介、起きてたの」
「あんなところで寝られるか」
祐介はなんとなく女が付いてきているに気が付いている
「ええ? たしかに狭いけどきみでも十分足を伸ばせるよね」
「そういうことじゃ……いや、いい。お前といられたほうが良いに決まっているんだ」
二人でぼけっと海を眺めている。行きの描写の反復
「また助けられちゃったね」
「ん、ああ……」
「ありがと」
「馬は用意できなかったがな」
「またそれ。なんなの」
「気にするな」
「気になるよ」
「聞けば後悔するのはお前のほうだぞ」
「なにそれ怖い。わかったよ、もう訊かない」
潮風に揺れる髪を指先で押さえて、はしばらく沈黙した。喜多川もまた特別なにかを口にする必要に駆られず、黙って隣に立つ少女の気配と眼前いっぱいに広がる雄大な海の姿を楽しんだ。
きらめく水面に、遠く黒い帯が引かれている。
なるほど、昔の人はあれを見て、水底に暗色の巨大な蛇が横たわる様を想像したのだろう。なんと自由で豊かな想像力か。少年は感心とともに指先が疼くのを感じつつあった。
けれどそれも、少女に捕まってしまうと、いっとき鳴りを潜めざるを得ない。
「あのさ、ええと……」
「どうした?」
「きみの、なに?」
「え?」
「私が真知さんに捕まっちゃったとき、きみ、私のこと……」
「……意識があったのか」
「ぼんやりと。頭が痛くて喋れなかったけど」
「あれは、その……勘弁してくれ……」
「へへ、ごめん。でも、けっこう、ちょっと、だいぶ……嬉しかったから……」
「そうか……」
俺は一生ぶんの恥のうち三分の一はあそこで支払った気がするよ―――
「また行こうね」
「騒動はごめんだぞ」
「だから……」
ああ、と頷いて続きを促すと、はいかにも恥じらって、つま先で錆よけ塗装された床を蹴りながら小さな声で告げる。
「二人だけで」
もちろん答えは決まっている。
喜多川は柵を掴む小さな手に己の手を重ねて、左右と背後をよく確認してからたしかに頷いてみせた。
ジョーカーがおくるみを男のもとに届ける。
「宅急便でぇす。サインお願いしますー」
「はいはい、ご苦労さん。どこからだい?」
「えーと……月見島の、真知さんって女性からですね」
「え……」
「……たしかにお届けいたしました。今後ともご贔屓に……」
帽子のつばを上げ、癖っ毛と伊達眼鏡の下の瞳を細めた青年は、男の手元で届け表を裏返した。
そこには赤と黒で描かれた意匠化されたトップハットと仮面が印刷されている―――
男は一歩たりとも動くことができなかった。目の前で低く喉を鳴らす青年や突き付けられた奇妙な紙片に怯えているわけではなかった。
その手から小さな箱に詰められた男宛の荷物が落ちる。厳重に梱包されていたはずのダンボール箱のふたがどういうわけか口を開いて、中から一枚の布がまるで意志をもつ生き物かなにかのように這い出した。
男の背後には赤ん坊を抱いた女が佇んでいる。
彼女はひたりと年老いた男の肩に手を置き、その耳に唇を寄せて甘く囁いた。
「あなたが来てくださらないから、会いに来ちゃった……ほら見て、あなたの子よ。男の子がいいって、言ってたわよね……?」
悲鳴が響いた一軒家から、一台のバンが遠ざかる。
けれど不思議なことに、誰もこれを目撃することはなかった。